川村渇真の「知性の泉」

設計に含まれる基本要素と作成書類


設計には満たすべき基本要素がある

 これからの社会では、工業製品以外の分野でも、きちんと設計することが求められる。社会の進歩とともに、物事を論理的かつ科学的に設計することの重要性が、だんだんとだが理解されるからだ。
 何かをきちんと設計したり、設計した内容を評価するためには、まず最初に、設計の基本要素を知らなければならない。主なものを挙げると以下のとおり。

設計の基本要素(作業のおおまかな流れでもある)
・目的:設計の大本の目的
・要件:設計目的から求めた、設計対象に求められる設計要件
・実現方法:各要件を満たすための個別の実現方法
・設計内容候補:実現方法を組み合わせた設計内容の候補(複数)
・評価基準:設計要件から求めた、設計内容候補を評価する基準
・最終設計内容:評価結果から得た、最終的な設計内容
・レビュー:設計担当者以外による設計内容などの評価
・設計書類:設計内容と設計過程を記述した書類

 最初に設計の目的を明確にしてから、それをより具体的な要件に落とし、実現する方法を洗い出す。得られた実現方法を組み合わせて、最終的な設計内容の候補を何個か用意する。続けて、目的から導き出した評価基準で評価し、候補の中から最良の設計内容を選ぶ。その設計内容を書類にまとめれば、設計の終了となる。途中で前の工程に戻ったりするが、大まかには、このような流れだ。
 基本要素に含まれるレビューは、設計内容ができるだけ適切になるために必要な作業である。設計者とは別な人が実施し、内容が適切であるかを評価する。最後の段階だけでなく、途中の重要な段階でも実施し、全体では工程の何カ所か(大きな場合はそれ以上)に入れる。また、評価基準の作成とレビューだけは、設計者とは別な人が担当しなければならない。別な人なら誰でも良いというわけではなく、設計者とは利害が一致せず、設計対象に関する知識や技術を持っていることが条件だ。
 設計する対象によっては、以上の基本要素に含まれていない要素も含める。簡単に挙げてみよう。試作品を制作して設計内容を確かめる工程があるなら、そのフィードバックも作業工程に含める。また、目的を得るために、調査や実験によって基礎データを得ることもある。外部から得たデータに関しては、それが正しいかどうか評価しなければならない。他の要素も、設計の質を高めるために何が必要か検討すれば、導き出せるだろう。
 全体を見て分かるように、問題解決の流れとかなり似ている。設計の目的の多くが、問題や課題の解決だからだ。加えて、途中の過程を論理的な流れにすると、どうしても似た形式になりやすい。問題解決でも設計でも、全体を数工程に分割して、前後の工程間で論理性を評価可能にする。分割して個別に評価することで、解決案や設計内容をきちんと評価できる。

設計内容や途中過程を書類として残す

 設計の対象が何であっても、適切に設計したことを明らかにするためには、設計した中身を伝えなければならない。その際に作成するのが設計内容の説明書で、設計の基本要素に含まれる。
 設計内容を表す書類は、設計した結果である中身を説明する「設計内容説明書」と、設計内容を得るまでの過程を説明する「設計過程説明書」の2つに分けられる。特別な理由がない限り、両方を作成しなければならない。特別な理由とは、内容があまりにも簡単なため説明が不要といった、普通ではない場合だけだ。

設計で作成する書類(書類名称は違っても構わない)
・設計内容説明書
  ・記述内容:設計の中身を説明する
  ・役割:設計内容を伝えるため
  ・作成上の注意点:内容の区切りで書類を分割する
・設計過程説明書
  ・記述内容:途中段階での検討内容や、用いた資料など
  ・役割:設計内容を評価するため
  ・作成上の注意点:検討過程を論理的に整理して示す

 設計の成果物である設計内容説明書は、1つの書類になるとは限らない。たとえば、設計対象が法律の場合を考えてみよう。主となる設計物は法律だが、その法律の運用に必要な組織があれば、その組織の説明などは、別な書類として作成する。内容の区切りで分割することで、理解しやすい書類に仕上げる。
 設計過程説明書は、設計内容が後からでも評価できるようにと、途中の検討過程を示すために作成する。設計を数工程に分割し、各工程とも前工程との論理性を記述すれば、きちんと設計したことが説明できる。必要に応じて、検討過程で使ったデータなども含めなければならない。作る手間を考えると、設計が終わってから整理して作るのは適切でない。設計しながら一緒に作り進み、設計過程でのレビューにも用いるのが普通だ。
 なお、同じ種類の製品をいくつも設計し続けるような組織では、前の製品と同じ設計内容を毎回説明するのは無駄なので、違っている部分だけ説明して構わない。読む人は限られているため、説明しなくて良い部分は省くのが当然だ。
 多くの設計では、後者の設計過程説明書を作成しない。そうすると、レビュー担当者以外の人が設計内容を評価しづらく、第三者によるチェックが機能にしにくい。その意味で、設計の対象が公共的なほど、設計過程説明書を詳しく作って一緒に公開する必要がある。具体的には、公共事業などが該当する。

基本要素を満たせば、自信を持って設計したと言える

 工業製品を製造している企業なら、製品を設計する部門を持っている。設計担当者がいて、何回かの試作やテストを重ねながら、最終的な製品の設計内容に仕上げる。まともな企業であれば、設計の作業工程が決まっていて、レビューなどの重要な工程を含めている。設計の質を高く保つためだ。
 ところが、部門の名称には「設計」という言葉が含まれるものの、設計しているとは言えない作業内容の組織もある。大切なのは設計したと言えるだけの作業の質であって、その組織に付いている名称ではない。設計したと主張するには、設計の基本要素を満たす必要がある。
 法律や制度などの作成は、設計と呼ばない場合が多い。しかし、そんな分野であっても、設計の基本要素を満たすことで、質の高いものが作れる。そうなったときには、自信を持って「設計した」と表明すればよい。
 設計の基本要素が理解できたら、身の回りで何かを作る工程を見直してみよう。決まったものを製造する場合は対象外だが、設計の基本要素を満たすように改善できる分野が意外と見付かるものだ。それが重要なことであればあるほど、基本要素を満たす価値は高い。もし改善が成功すれば、現状よりも良いものが設計できるだろう。

(1999年10月13日)


下の飾り