川村渇真の「知性の泉」

知って得するノウハウを提供


技術情報だけしか流通しないのが現状

 どんな分野であれ、設計というのは、非常に面白い作業である。技術的な知識を用いることに加え、創造的な要素も含まれているからだ。設計を担当する人なら誰もが、できるだけ良いもの作りたいだろう。その際、技術だけに詳しくても、希望したような成果が得られない。技術以外のノウハウが必要になるからだ。
 ところが、技術以外の設計ノウハウを得ようとすると、そう簡単ではない。技術的な情報なら、かなりの部分を本や論文から入手できる。しかし、技術以外のノウハウは、広く公表される機会は極端に少ない。
 設計ノウハウには、共通の特徴がある。上級の設計者ほど必要な度合いが大きい点だ。雑誌や本では、発行部数を増やすために、上級者向けよりは初心者向けを対象とする傾向が極端に強い。結果として、上級者向けとなる設計ノウハウが載る機会は少ない。現実には、編集長が意義を認めて企画を通すぐらいしか、掲載される可能性はない。また、学会の論文でも同じ結果だ。実務的な設計術が中心となる設計ノウハウは、学会の研究対象となりにくい。
 ほとんどの設計ノウハウは、上級設計者の頭の中にあり、指導を受けた後輩に直接伝えられることが多い。非常に個人的な伝達方法なので、狭い範囲でしか活用されず、体系化されることは少ない。

設計するときに何を考えるかが重要

 設計ノウハウの中心となるのは、設計するときに何を考えるかだ。どんな点に注意しながら設計すべきかは、設計上の視点を定義することに等しい。これは設計の第一歩であり、それが優れていれば、良い設計結果が得られる。逆に、視点が適切でないと、悪い製品ができやすい。
 どんな分野にでも共通する視点に「使いやすさ」がある。この点を、十分どころかほとんど考慮していない製品が、いかいに多いことか。「使いやすさ」は、突き詰めると非常に難しい問題だ。しかし残念ながら、現状は考慮してないに等しいレベルなので、難しい段階まで達していない。ユーザーインターフェースの専門家でなくても、まだまだ改良できる段階といえる。
 設計上の視点を洗い出せたら、それらを達成するための工夫を視点ごとに導き出す。この段階では、具体的なアイデアが求められる。集まった工夫は、設計の要素ごとに整理し、設計ルールとして体系化することが望ましい。それによって、多くの人が活用できるからだ。
 ここの工夫を説明する場合、単純にルールだけを述べるのは良くない。どんな理由でルール化したのかも一緒に説明しなければ、実際に使うことは少ない。また、設計という作業は、同じように見えても個々で少しずつ異なる。それぞれに適した設計結果を得るためには、状況などを十分に考慮しながら、工夫を適用する必要がある。このとき、工夫の背景にある理由が役立つのだ。さらには、理由を知ることで、もっと良い工夫を思い付く効果もある。長い目で見れば、個々の工夫の理由を知ることは、設計における視点をより深く理解することにつながる。

設計の対象は幅広く

 このコーナーでは、設計の対象を幅広く捉える。「データベース設計」のような実際の製品だけでなく、「テスト方法」や「評価方法」といった形のないものまで扱いたい。「適切な評価方法を考える」というテーマは、非常に奥が深く、考え出すとワクワクする分野である。
 ここでの最大の目的は、幅広い視点を提供することだ。考慮すべき視点を中心に述べた設計ノウハウなら、たとえ分野が異なっても、役に立つ可能性が高い。その意味から、関係のない分野のノウハウだとしても、どんな視点で捉えているのか考えながらなら、じっくりと読む価値があるだろう。

(1996年5月30日)


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