川村渇真の「知性の泉」

マトモな議論には議論手法の理解が必須


きちんとした議論になることは非常に少ない

 現代社会では、様々な問題が発生するため、議論に参加する機会は多い。社内でなら、新製品の仕様や販売方法を決める会議や、発生した問題の解決方法を決める会議などがある。小さなサークルでも、活動内容を決める際に意見が分かれたら、話し合ってどれかを選ばなければならない。人が一緒に活動する限り、所属する地域やグループでの集まりでも議論が起こる。
 全員の意見が一致しているなら、大きなトラブルもなく結論が得られる。ところが、利害が対立するとか、価値観が異なるなどの理由で、意見の食い違うほうが普通だ。そうなると、結論を出すのは非常に難しい。最悪の場合には、感情的なしこりを残すほどの大ゲンカにまで発展する。もちろん、合意できる結論など得られず、議論が失敗に終わるわけだ。
 意見が対立が激しくないときでも、議論が効果的に行われるとは限らない。会議に出席していても発言させてもらえないとか、きちんとした反論が得られないとか、科学的なデータを無視して決定されるとか、論理的に議論が進まないケースもある。また、会議が終わった後で、これが結論ではなかったともめることも起こる。このような議論もまた、みんな失敗といえる。
 ネットワーク上の電子会議も含め、いろいろな議論に参加して分かったのは、きちんとした議論になるケースのほうが圧倒的に少ないことだ。参加者のほとんどが適切な議論方法を知らないため、とんでもない方向へと進みやすい。時間を無駄にしていることにもなり、非常に残念だ。

議論手法への参加者全員の理解が必要

 マトモな議論を成立させるためには、議論の進行を上手にコントロールする必要がある。前提条件や目的を一致させること、目的の範囲から外れないように話題を適切に保つこと、各人の発言内容を整理して参加者全員に示すこと、論理的な評価で結論を選ぶこと、決定事項を最後に確認することなどだ。これらを実現できるように、議論の進め方や役割分担をルール化したものが、議論手法である。
 議論手法を理解すべきなのは、議論の進行をリードする議長だけではない。参加者の全員が対象となる。全員の協力がなければ、きちんとした議論にはならないからだ。もちろん、議論での役割ごとに守るべき内容が少しずつ異なるため、自分の役割に応じた行動を求められる。
 議論をコントロールする目的は、質の高い意見交換を実現することにある。発言を制限して、結論を好みの方向へと導くものではない。議論の目標をきちんと理解して、それに必要な最良の結論を求めるためのものだ。全員が議論手法を理解して行動すれば、より建設的な結論を得られる可能性が高まる。

マトモな議論を邪魔する行動の排除も重要

 意見が対立する場合の多くは、価値観や利害が大きく異なることが原因だ。自分の思い通りにならない側では、感情的に発言したり行動したりする傾向が強い。そのほとんどは、マトモな議論を邪魔する行動となる。これが起こると、マトモな議論からどんどんと離れていき、最終的には単なる口げんかの状態にまで達する。これを議論とは呼べない。ただの言い合いである。当然、マトモな結論を得ることなど期待できない。
 議論が大きく失敗する原因の多くは、邪魔する人の存在である。議論をきちんと進めるには、邪魔する人を上手に排除する方法も知らなければならない。どんな方法で邪魔するのかを知り、その方法ごとに適切な対処を施すことが大切だ。
 対処方法には何段階かのレベルがある。軽いほうが相手を傷つけにくいが、当然のごとく効果は小さい。軽いほうから順番に試し、状況が改善されないケースでは、もっとも強力な方法を実行することになる。それでも、相手には通じないこともある。マトモな議論をする気が最初からないためだ。そんな最悪の状況での対処方法も、知っておくべきである。
 邪魔する人はかなり多いものの、本人が自覚していない場合がほとんど。どんな行動が邪魔を意味するのか参加者に知らせることも、邪魔を防ぐ上で効果がある。邪魔する人のために失敗するケースが多いだけに、邪魔を防ぐ方法は重要といえる。

 このコーナーで取り上げるのは、論理的で議論を進めながら、建設的な結論を得るための方法だ。それを全員がマスターすれば、より良い結論が得られるだけでなく、時間も有効に使える。また、参加者の思考レベルも向上する。多くの問題が次々と発生する現代社会では、より多くの人が議論手法を身に付けるべきである。

(1997年11月21日)


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