川村渇真の「知性の泉」

腕を上げるのに役立つ方法がある


何も考えずに作り続けていてはダメ

 多くの人は、映画などの芸術作品の制作に、様々な定石があることを知らない。何でもかんでも、作者の感性で作っていると思っている。しかし、実情は大きく異なる。
 その代表例が、映画だ。観る人が感動したり、ワクワクしたり、恐ろしがる場面では、何種類もの定石が一緒に使われる。その1つが、音楽。大事な場面では、雰囲気を盛り上げるために、雰囲気に適した音楽を必ず挿入する。音楽を削除してみると、雰囲気が大きく低下し、音楽の効果の大きさに驚くはずだ。  普段とは違う雰囲気を出したい一部の映画では、照明が極めて重要。どのホラー映画でも、普通の映画とはまったく異なる照明の仕方で、怖さを演出している。他にも、カメラアングル、カットのつなぎ方、役者の表情、化粧や衣装など、様々な工夫を組み合わせる。
 もっとも大きいのは、脚本レベルでの工夫だ。感動する場面へ達する前に、準備段階として、いろいろなシーンを用意する。関連するシーンを事前に観ているため、感動が生じるわけだ。たとえば、悲しい境遇にあったとか、ヒーローが防げない凄い武器で悪役が待ちかまえているとかだ。この種の定石は、小説でも多用されてる。
 感動の場面以外でも、決まった工夫がある。古い題材を取り上げたドキュメンタリーなら、資料として写真しかないことが多い。写真をそのまま写しただけだと、動きのないが映像が続くため、写真をズームしたりパンしたりして、動きのある映像に仕上げる。また、役者を使った再現映像では、役者の顔ができるだけ見えないように撮影する。資料の中に実在人物の顔写真が含まれていると、役者の顔とは違うため、観る人のリアリティーが低下するからだ。
 ここで紹介したのはほんの一部で、映像作品を作る際には、非常に多くの定石が存在する。そして、ほとんどの作品は、定石を守って作られている。ただし、一部のカットだけは、明確な表現意図から、定石を意識的に外すことも行われる。
 このような定石があるから、観客が同じシーンで感動する。監督が計算したとおりに。また、感動的なシーンを多くの人が作れる。そうでなければ、テレビ番組や映画を含めて、あんなに多くの監督や助監督が存在できるはずがない。みんな、数多くの定石も含めて勉強し、腕を磨いているのだ。その上で、自分の感性を加える。
 以上のような実情なので、何も考えずに、ただただ作品を作り続けたのでは、腕が上がらない。作品を作るときに、どんな点をどのように考えているのか、表現に関する定石も含めて知る必要がある。

腕を上げるのに役立つ方法は非常に有効

 定石があるということは、上手に表現する方法を、他人に言葉などで伝えられることを意味する。その伝達が効率的に行えれば、作品作りの腕を効率的に上げられる。
 実際、効率的に伝達したり学習する方法があるのだ。こう言うと、非常に特殊な方法だと思う人がいるかも知れない。たとえば、「優れた作者から学ぶために、近くで一緒に仕事をする」方法とか。しかし、この方法は、普通の人は実現が難しいため、実質的に役立たない。また、実質的に効果が不明な方法も同様だ。たとえば、「映像作品を凄く多く観る」とか。ただ観ているだけでは、作品を作る際に役立つ能力が高まらないので、あまり意味のない方法だ。
 こうした方法ではなく、一人で学べたり、近くにいる普通の仲間と一緒に利用できる方法を紹介する。もちろん、腕を上げる効果が本当にある方法を。その分野に興味がある人は「こんな方法もあったのか」と驚くかも知れない。
 具体的な方法は、芸術の分野によって異なるため、分野ごとに紹介する。取り上げる方法は、期待する効果が得られるように、計算して設計した内容となる。優れた映像作品が深く計算されているように、腕を上げるための方法も深く計算して設計しなければならない。

(2003年1月3日)


下の飾り