川村渇真の「知性の泉」

深津絵里:画面から強く伝わる感情表現


演じている役の感情を強く伝えられる女優

 深津絵里さんは、最初に観た頃から気になる存在だった。その理由が分からず、いくつかの作品を観るうちに、その魅力が少しは明らかになってきた。
 一番良いと思うのは、演じている役の気持ちが、画面から強く伝わってくる点だ。たとえば、何かを嫌がっている場面では、本当に嫌そうな感じが見る側に伝わってくる。他に、悲しんでいるとき、寂しいとき、怒っているとき、喜んでいるときなども、同様に画面から強く伝わってくる。場面によっては、少し大げさな演技に感じることも少しだけあるが、多くの人が観るドラマでは、できるだけ多数の人に伝わるように、少し大げさに演技するのがベストなので、この点は仕方がないだろう。
 どんな風に強く伝わってくるのかというのは、正直言って説明するのが難しい。他の上手な役者だと、悲しんでいる場面には、悲しんでいる様子が伝わってくる。彼女の場合は少し違って、まるで仲の良い人が悲しんでるかのような感覚というか、観ている人が入り込む度合いが強いように思う。
 そのように感じる理由に関しては、まだ分析できていない。顔の表情が豊かというか、感情に適した顔の表情ができるためとも考えてみた。しかし、確証を持つまでには至っておらず、今後の分析課題として残っている。
 もう1つ気になっているのは、本人が意識して演じているかどうかだ。もし意識して演じているとすれば、凄い演技力といえるだろう。逆に、意識せずにできているとすれば、天性の才能を持っているといえる。個人的には、後者のような気がする。
 感情が強く伝えられる役者は、観ている人に感情がよく伝わるので、その分だけ目立ってしまう。また、役柄によっては、観ている人が応援したくなりやすい。結果として、準主役であっても、主役を食ってしまうケースが増える。

「天気予報の恋人」の金子役で魅力を再確認

 深津絵里さんが準主役として登場するので、フジテレビのドラマ「天気予報の恋人」を毎回観てしまった。彼女は金子祥子という役を演じ、恋に臆病な女性という設定だ。しかし、この役には、ラジオの人気のDJの唯川幸という顔もあり、リスナーに恋愛のアドバイスをしている。
 唯川幸としては、DJという仕事の役なので、喋り方と声を中心にしながら演じていた。非常に優しそうな雰囲気を出し、じっくりと語りかける話し方は、純粋なラジオ番組としてずっと聞いていたくなるほどだった。もっとも注目したのは、喋り方や声が、聞いていて耳に心地よい点だ。思いっきり作った喋り方と声だが、役柄にはバッチリと合っていた。
 金子祥子の方では、彼女が得意とするパターンなので、いつもどおり上手に感情を表現していた。もう少し冒険をしても良いのではと思ったが、この辺は監督に権限があるので、役者に意志があってもどうにもならない。
 主役の原田早知役を演じたのが、稲森いずみさんだ。彼女の特徴は、少し現実離れした異星人お嬢様風の雰囲気で、他の人には容易に真似のできない味を持っている。しかし、役の感情を伝える面では弱い方に分類され、深津絵里さんが目立つ効果を与えてしまった。
 また、恋愛ドラマだった点でも、深津絵里さんの感情伝達能力が強く出やすい。そのため、彼女が演じる金子祥子を応援する人が、回を重ねるごとに増えていったと予想する。また、今回のドラマで、彼女のファンが増えただろう。その意味で、ハマリ役だったと思う。
 ドラマの中では、最後に主役の男女が結ばれて終わった。しかし、主役男優の佐藤浩市さん演じる矢野克彦とは、深津絵里さん演じる金子祥子と結ばれてほしいと思った視聴者が、意外に多かったのではないだろうか。実際、番組のウェブサイトに書かれた感想を読むと、そうした意見がかなりあった。
 このドラマの“真の主役”は深津絵里さんであり、それを意識した配役ではないかと勘ぐってしまった。役柄のせいもあるが、主役の二人の存在感が弱めで、見終わったとき、深津絵里さんの印象が一番強く残るからだ。誰が配役を決めたか知らないが、番組のプロデューサーにでも、そうした意図がなかったか、ぜひとも尋ねてみたいところだ。もちろん、正直には回答しないだろうが。

いろいろな役柄での演技を観てみたい

 深津絵里さんのような特徴を持つ役者だと、いろいろな役の演技を観てみたい。今までとは毛色の違う役を与えられたとき、どのように演じるのか、非常に興味がある。
 日本映画界というか芸能界の欠点として、役者にレッテルを貼ってしまい、似たような役ばかりやらせる傾向が強い。深津絵里さんの場合は、少し弱そうなタイプとか、真面目なタイプの役柄が中心になっているようだ。そうではなく、もっと違った役柄を与えてほしい。
 日本の映画やドラマにおいては、女優の場合、20代後半から30代前半がベストな時期である。現実的に考えて、主役級の役を得られる機会が多いし、演技力もある程度まで身に付いているからだ。彼女も、この時期にさしかかったので、これから10年が楽しみだ。ぜひとも、いろいろな役にチャレンジしてほしい。
 今までとは正反対の役柄をもらったとき、最初は苦労するだろう。しかし、彼女なら何とかこなせそうな気がする。上手に雰囲気を出しながら、役の感情を強く伝えられるはずだ。どんな演技になるのだろうか。深津絵里さんの新しい面が出ると思うので、絶対に観てみたい。(こんなサイトを読んでいないと思うが)関係者の皆さん、ぜひとも実現させてほしい!

(2000年7月9日)


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