川村渇真の「知性の泉」

撮影直後の品評会が写真の上達を加速


 学生時代にハマっていた趣味の写真を、昨年から本格的に再開した。毎月1回のペースで撮影会を開くだけでなく、面白い方法で品評会も行っている(本当は品評会ではないのだが、紹介する内容が理解しやすいように、ここでは品評会と呼ぶ。ちなみに、私のグループでは反省会と呼んでいる)。この品評会は、写真の上達を早めるのに大きな効果がある。手順や効果まで含めて紹介しよう。

撮影直後に、自分の写真を解説する形の品評会

 行うことは非常に単純だ。参加者全員が撮影会を開き、必ず同じ場所で撮影する。1箇所に限定する必要はないが、複数箇所を移動するときも、全員が必ず同じ場所を通って移動する。そして、撮影会が終わったら、撮影した写真の品評会を全員で開く(私のグループでは、飲み会を兼ねている)。
 この方法で重要なのは、品評会の開き方だ。品評会は、撮影会とセットになっていて、撮影の直後に開催する。直後にこだわるのは、個々の写真をどのように考えて撮影したのか、忘れないうちに解説するためだ。
 この品評会を実現するためには、デジタルカメラとノートパソコンが必要となる。撮影した写真は、まずノートパソコンに取り込む。パソコンには、スライドショー機能があるソフトをインストールしておき、撮影した写真を順番に表示する。これが品評会の基本的な方法である。
 品評会でもっとも重要なのは、個々の写真に関して、どのように考えて撮影したのか、撮影者自身が説明すること。こうした説明を、すべての写真に対し、撮影した順序で1枚ずつ行う。説明の量が写真ごとに異なるため、手動でコマ送りできるスライドショーソフトが必須となる。再び見たいと前の写真に戻すこともあるので、逆送り機能の搭載も望ましい。
 ノートパソコンで写真を表示するとき大事なのは、写真だけを画面一杯に表示させること。こうしないと、作品に集中できない。また、写真だけを表示させると、写真が何かの一部として表示された場合と比べて、写真の印象がかなり異なる。液晶モニタがそれほど大きくなくてもだ。
 品評会での発表者は、撮影会に参加した全員である。どんな順番でも構わない。この方法による発表経験が浅いうちは、先に行った方が気楽にできる。ただし、初めて経験するときは、どのように説明するか分からないため、何人か説明を見た後の方がよい。慣れてくると、順番など気にしなくなるだろう。

自分の写真に関する説明内容は、何でも可

 次は、個々の写真に関して、どのような内容を説明するのか、簡単に紹介しよう。基本的には、撮影の際に考えたこと全部が対象となる。具体的にどのような内容を説明するのか、主なものを挙げてみよう。写真を趣味にしている人でないと、理解できないかも知れないので、適当に読み飛ばしてほしい。

個々の写真で説明する主な内容
・何を表現しようとしたのか
  ・色や光の美しさ、被写体の様々な雰囲気
  ・形の面白さ、不思議さ、広がり感、動きなど
・どのように工夫したのか
  ・被写体として、どれを入れてどれを外すのか
  ・主要被写体の目立たせ方
  ・前景や背景の扱い(主要被写体との関係)
  ・構図、切り取り方、撮影アングル、光源の扱いなど
・工夫を実現するために、何をどのように使ったか
  ・レンズの焦点距離と絞り
    ・例:広角レンズ:遠近感を強めて主要被写体を強調
    ・例:望遠レンズ:前景や背景をぼかして主要被写体を強調
  ・シャッター速度:動きの止め方、流れの出し方など
  ・フラッシュ:手前にある被写体を明るくして強調するなど
  ・レフ版:特定箇所に光を加えて美しくなど
・狙いが成功したか失敗したか
  ・狙った表現は成功か失敗か
  ・どこをどのように直せば成功したか
  ・思いもしない部分で良く仕上がった点があるか

 これらの項目は、かなり多めに挙げたものだ。この全項目を、すべての写真で説明したら非常に長くなってしまう。実際には、写真ごとで、この項目の中から重要なものを選び、それだけ説明すればよい。また、明らかに失敗した写真などは、一言か二言だけで終えよう。説明が長い場合でも、1枚あたり30秒程度で済ませる。この程度で十分だろう。良い写真だと、他の参加者から意見や質問が出て盛り上がるが、その時間はいくら長くても構わない。
 なお、撮影した写真の中には、作品作りとは異なる目的のものもある。せっかく訪れたので、その場所や建物を記録する目的の写真とかだ。そんな写真の場合は、「これは建物の記録として撮影しました」などと短く説明し、次の写真に移ればよい。深く考えずにシャッターを押した写真も同様で、「あまり考えず、とりあえず直感でシャッターを押した」などと正直に話す。
 上記のような項目の中身は、撮影してから時間が経つと語れない。だからこそ、撮影直後に行うのである。そうしないと、この方法の価値は大きく低下する。

撮影時に考えることを効率的に学習できる

 品評会で自分の作品を説明するには、考えながら撮影していないと難しい。とくに、ただシャッターを押しているだけの人は、ほとんどの写真で説明する内容がないからだ。このような理由から、初心者が初めて参加すると何も語れない。しかし、2回目以降は少しずつ語れるようになる。初回に聞いた、他の参加者の説明内容によって、撮影時に何を考えるのか学習するからだ。
 経験の長い人でも、勉強になることが意外に多い。同じ場所を歩きながら被写体を探しているのに、自分がまったく気付かない被写体を誰かが見付け、良い写真を撮影したりするからだ。被写体の見付け方が向上し、被写体の幅も少しずつ広がっていく。
 写真で面白いのは、初心者が凄く良い写真を撮れることが、意外に多い点だ。まぐれ当たりに近いが、これがあるから、初心者でも楽しく参加できる。また、それが思いもよらない写真だったりすると、経験者にも勉強になる。「あーぁ、こういう視点もあったのか」と。
 失敗した写真を見せたときでも、得することがある。どのように撮影すれば、どの部分が良くなるのか、詳しい人が教えてくれるからだ。また、もっと違う視点での撮り方を提案する人もいる。これも非常に勉強になる。また、かなり面白くて盛り上がることも多い。
 品評会では、撮影した写真をそのまま見せる。つまり、トリミングしない状態だ。この感覚は、銀塩写真でリバーサルフィルムを使った撮影に近く、トリミングなしでの撮影を強く意識させる。なお、銀塩カメラの場合は、超高級機種を除くと、ファインダー視野率100%ではない。この点、デジタルカメラの方は、液晶モニタでの視野率は100%が多いので、銀塩カメラより有利だ。
 以上の話を整理すると、この写真品評会によって得られる効果は、次のようになる。撮影の腕を上げる目的にとって、どれも重要なものばかりだ。

本人による説明付きの品評会で、得られる効果
・考えながら撮影すること学べる
  (いろいろなことを考えて撮影する)
・撮影時に考える様々な点を知れる
  (表現上の狙いや工夫、カメラの設定など)
  (本や雑誌に載ってない視点も出てくる)
・失敗した写真の改善方法を知れる
  (失敗写真を見せたとき、改善方法を誰かが教えてくれる)
・被写体の見付け方が向上し、被写体の幅が広がる
  (自分が気付かなかった被写体を、別な人が上手に撮影)
・ファインダーで構図を整えて撮影する癖が付く
  (品評会では、全写真をトリミングなしで見せるため)
以上が組み合わさり、写真の腕が“短期間で”上達する

 実際にやってみると、期待した効果が本当に得られている。参加者の説明内容が少しずつ増えるし、説明内容の中身も濃くなっていく。当然、写真の出来も段々と良くなる。どの人も写真の出来の平均値が向上して、粒揃いの写真が増える感じだ。
 各参加者の写真を全部見ると、自分が見てなかった被写体が意外に多く登場する。同じ場所を歩いているのにだ。また、同じ被写体でも、まったく別な視点で撮影した人がいるのにも気付く。こんな感じなので、自分が思いもしない視点や考えに出会えて、非常に面白い。
 最初のうちは、全写真の公開を恥ずかしいと感じる人がほとんどだった。失敗作品まで他人に見せることや、良い写真でもトリミングせずに見せることに、慣れてないからだ。それでも、何回か繰り返すことで、この方法の利点を理解し、積極的に参加するようになる。
 参加者の積極性は、どんどんと見せたがる姿勢として表れている。撮影会以外で撮影した写真も、事前にノートパソコンへ取り込んできて、品評会のときに一緒に見せるのだ。もちろん、失敗写真も含めて、撮影時に考えたことを説明しながら。
 こんな状態になったら、この方式の品評会が大成功だといえる。そのときには、参加者全員の撮影の腕が、開始前より上がっているだろう。

一番の目的は、作品作りより腕の上達

 この品評会の一番の目的は、“良い作品を作ること”ではなく“写真の腕を上げること”にある。そのためにも、撮影場所の選択には注意を払いたい。一般的に、良い被写体が数多く集まっている場所よりも、良い被写体が多くない場所の方が適する。いろいろな視点で被写体を見付け、それを上手に表現することこそ、腕を上げるためには重要だからだ。
 以上が基本となるが、毎回難しいのは面白くないと思うなら、難しい場所は2回に1回程度とする。良い場所と交互に選べば、腕を上げるのと作品作りの両面から楽しめるだろう。最終的には、難しい撮影場所の価値を理解した上で、参加者の好みによって決めればよい。
 いろいろと考えながら撮影できるようになると、撮影するのが本当に面白くなる。こうやって表現してみようとか、こんな工夫を盛り込もうとか、新しい技を使ってみようとか、何でも試すようになる。それが写真という形で結果に出るので、撮影がますます面白くなるようだ。
 工夫には、いろいろなことが考えられる。たとえば、良い被写体を見付けたとき、まず触感で1枚だけ撮影し、その後で考えながら何枚か撮影するとか。通常は考えて撮影した結果が良くなるが、たまに直感の方が良かったりする。こうなるのは、考える要素として何かが欠けているためだと推測できる。その何かを求めるのも、面白いことである。このように、何でも工夫しながら実験すればよい。

 この品評会では、全員が自分の作品を見せる立場に立つため、口だけで偉そうなことを言えない。もし偉そうなことを言っても、その人が撮影した写真がそうなってなかったら、突っ込まれてしまうからだ。このような特徴があるため、口だけの人は出ない。
 楽しく続けるためには、良い雰囲気を維持することが大事だ。欠点を指摘する感じではなく、建設的に良い提案をする感じで発言すれば、楽しみながら腕も上がり、長く続くだろう。

おまけ:レビューと似ている面もある

 このコーナーの内容には関係ないが、紹介した品評会を、別な視点で捉えてみよう。この品評会は、ある面でレビューと似ている。
 レビューでは、設計した内容などを、設計担当者とは別な人が調べる。重箱の隅をつつくような視点ではなく、設計に関する大事な点だけに絞り、適切に設計されているかを見る。もし悪い点が見付かると、レビュー担当者は設計担当者に、悪い箇所と悪い理由を説明する。また、何か疑問があれば質問する。
 こうした説明や疑問は、設計で何を考えればよいのか、設計した人に知らせる効果がある。そのため、レビューを繰り返すと、設計者の設計能力が効率的に向上する。設計の腕が“短期間で”上がるわけだ。
 このようにレビューで得られる効果は、今回の品評会と似ている。異なるのは、説明対象物と説明者の関係だ。品評会では、説明対象物の作成者が説明者となる。ところがレビューでは、説明対象物の作成者とは別な人が、説明者(悪い点の指摘者)となる。このように関係が少し異なるものの、得られる効果は非常に似ている。
 似ている点は、もう1つある。実施する人の気持ちの変化だ。レビューでも品評会でも、最初に行うときは抵抗感が強い。レビューされるのも、品評会で全写真を見せるのも、できるだけやりたくないと思う。しかし、レビューや品評会での効果を知れば、自分から積極的にレビューを受けたり品評会に参加したりする。
 今後の社会では、自分の仕事の結果について、レビューを受ける機会が増えるだろう。そのため、レビューされることに慣れる必要がある。この品評会は、もしかしたらレビューに慣れる効果があるかも知れない。

(2003年1月3日)


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