ばかのじう

<中編>

ここからのつづきです


■ 楕円形のフィールド ■




ゆ:
 このヤミナベのドンブリん中のことを、「楕円形のフィールド」って言ってるのか。

も:
 いやでも、この眺めはすげーな。パンフレットとかを見ると、この施設の目的は「非日常的な空間で、普段と違った感覚で世界を見よう」みたいなことらしいけど、確かにこんな異世界だったら分からないでもないな。やりたいこと。




ゆ:
 う〜ん、確かにそれはそうだけど。なんかこう、デザインとして気持ち悪いくないか?。なんか飛び出た内蔵みてるみたいで。この肌色っぽい感じがスゲーつらいんだけど、オレ。

も:
 この黒いのは?、エーと。「もののあわれ変容器」。その手前のピンクの迷路みたいのが、「宿命の家」。

ゆ:
 もはやタイトルの異様さごときには驚かなくなったな。というか、いちいち意味考えてられないもんな(笑)。


も:
 それから、あっちの白いのが「白昼の混乱地帯」、んでこっちのが「陥入膜の径」。

   


ゆ:
 でもさ、色々名前や形が違うわりには、全部「迷路」じゃん。結構ワンパターンだよな。

も:
 あー、確かに。ちょっと飽きてきたよな。

ゆ:
 おっ、でも何か地下への入口みたいのがあんぞ。行ってみよう。


も:
 これの名前は「地霊」だって。洞窟みたいだな。なんかホンマのドリフコントみたいになってきたぞ。


ゆ:
 おい、中は真っ暗だぞ。手探りで進まなきゃならないぐらい、スゲー暗さ。しかも、床がデコボコしてて、恐いよ。
 .........うわっ!

も:
 どうしました隊長!。


ゆ:
 手探りで歩いてたら、向こうから来たオバサンの顔、思いっきりさわっちゃったよ(笑)。


も:
 すごい闇だからな。ちょっと普段の生活で、ここまでの暗さって体験できないよな。これ、出られなくなった人、いるんじゃないか。モノすげー、恐いよ。


ゆ:
 なぁ、結局これも「真っ暗な迷路」じゃん。暗いから面白いけどさぁ。


も:
 あっ、そういえば、さっきのパンフの「課題」、ここのはどうなってるか見てみようぜ。



ゆ:
 いや、オレはあんまり気が進まないけど...。


●空を、すり鉢形の地面に引き下ろすようにしてみること。

●「極限で似るものの家」の光景を出来るだけ思い出すこと。そしてその逆も試すこと。

●不意にバランスを失った時、世界をもう一度組み立てるのにどうしても必要な降り立つ場の数、種類、位置を確かめること。

●「宿命の家」「降り立つ場の群」と呼ばれている廃虚では、まるで異星人であるかのようにさまようこと





ゆ:
 .......やっぱ、帰ろっか....。
 ...............やっぱ、アブねーよ、絶対....。

も:
 ぎゃはは、「異星人であるかのようにさまようこと」ってなんだ?(笑)。作者自身、やってみたんか、っつーの(笑)。いやぁー、オモロい!。

ゆ:
 あー、またオレ、気持ち悪くなってきた。おえ。
 どうして普通にさしてくれないんだ?。自由に遊んじゃいけないのか?。どうし^龠齲斎*(&鼬んな皷%鼾黼*黹黙*黷言っても黌〜龜麿@麻麟麗麋#鶉%&!鸞Nゝ、cе齏yんだー!。

も:
 いかん隊長がまたハマった。セリフ化けてるし。だから、無視すりゃいいんだって、こんな課題。



ゆ:
 ...う〜ん、さっき言ってた「非日常的な空間で、普段と違った感覚で世界を見よう」か?。これはわかる。確かに、あの真っ暗な迷路とか、ワクワクするもんな。全然OK。
 だけど、そのために変なネーミングや、この気持ち悪い「課題」とか、本当に必要なのか?。


も:
 いやぁ、子どもとかはそんなの全然見てないし。でも大はしゃぎして喜んでるもんな。


ゆ:
 じゃあ、この「ブキミさ」は何のためなんだかなぁ?。

も:
 そりゃやっぱ、「作品」だからじょうがないんだろ?。「作者の意向」っていうか、「コンセプト」なんだろうから。

ゆ:
 じゃぁさぁ、これだけここに人がいるのに、「作者の意向」を、誰れも気にも留めてないってことか。それでいいのかなぁ、作者。

も:
 要するに、中途半端なんじゃないか?。「自由な公園」なのか、「作品」なのかさぁ。

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ゆ:
 それにしてもちょっと、ここ歩くのコワいよ。急に坂になってたり。だいたい、この肌色の部分、コンクリみたいに固いじゃん。ころんだら完全にアウトだよ。

も:
 だって、バランス感覚を狂わせるのが目的なんだろ?。しょうがないじゃん。


ゆ:
 それにしたってちょ、ちょっと、待ってよ〜!。こんなの登るのかよ〜。こぇーよー。

も:
 あ〜、やっぱ、みんな同じように登るから、すぐ芝生がハゲちゃうんだろうなぁ。管理する人も大変だろうな。

ゆ:
 管理する人っていえば、なんかガードマンみたいな人も数人いるよな。巡回してんじゃなくて一ヶ所にずっと。何してんだ?。



も:
 やっぱ特に危ないところで見張ってるんじゃないか?。転げ落ちたら即骨折みたいなところで。

ゆ:
 あっ、なるほど。ここもそういえば恐いな。
...ちょ、ちょっと、そこのニイさん。あんた、そんなにすました顔でよくそんなガケップチをタカタカ歩けるな!。


も:
 そういえば前に建築の雑誌で見たんだけど。ここがオープンしたときに、確か開園5日間で骨折した人が2人出たとか書いてあったぞ。

ゆ:
 5日間で2人!?。すげぇ打率だなぁ。

も:
 ひょっとしたら、その時には、この柵とかなかったんじゃないか?。それなら落ちるしホネも折れるよ。だいだい、本気のアート作品なら、柵とか注意書きとかは、最初からはつけないだろうな。作者がイヤがるだろ。


ゆ:
 あっ、ほんとだ。いかにも後づけっぽいし。
 やっぱ、オープンしてみたらみんな転がっちゃうんで、急いで柵作ったり、警備員おいたりしたって感じだよな。でも、こうなると作者も逆にかわいそうかもな。後から余計な物が取り付けられちゃってさ。でも「バランス感覚を揺さぶる」ってのがコンセプトなんだったら、危ない箇所も少しはあってもしょうがないのかもな。

も:
 いやでもさ、その建築の雑誌にさぁ、結構恐いこと書いてあったんだよ。

ゆ:
 なに?。

も:
 けが人が出てるってのを聞いた作者のコメントがさぁ、
「新しい文明をつくり出すためには、その代償として骨を折ることもやむを得ない。」
...とか言ってんだよ....。



ゆ:
 げ。
 ...............ギャグで?。

も:
 マジで。

ゆ:
 ...............やっぱ、アブねーや....。



も:
 いくらなんでも「やむを得ない」はないよな。それじゃぁ、喜んで見に来て、運悪く骨折した人が浮かばれねぇよ。

ゆ:
 するてぇとなにか!、作品のコンセプトのために、客は犠牲になってもやむなしってか!。むがー!!(怒)。だいだい、「新しい文明」ってなんやねん!。ここに居るみんなに分かるように説明しろっちゅーねん!。

も:
 いや、そこまで怒らなくても..........。

ゆ:
 分かった!。そこまで言うんなら、もう、ええ!。こっちにも覚悟があるぁ!。
 声を大にしていうが、オレはこの「作品」、嫌いだ!。
 ..........嫌いだぁー!!。

も:
 落ちつけよ、おい。さっきは「確かにワクワクする」とか「ある意味、全然OK」とかいってたじゃんか。
 作者のコメントとか、「使用法」のパンフとか、そういう情報知らなきゃ、素直に楽しめると思うけどなぁ、おれ。

ゆ:
 いや、公園じゃなく「作品」と名乗るなら、そういう裏に流れてるコンセプトも含めて「作品」のはずだろ?。確かに、「場所のみ」なら面白いが、ここはやっぱ裏に流れてるものが、気持ち悪すぎる。おれには合わない。こういう感覚は!。

も:
 確かになぁ。「場所の面白さ」に比べて、「裏側のブキミさ」のギャップの激しさはすさまじいよな。なんか、何の予備知識もなく遊んでる子どもとかがうらやましくなってきたな(笑)。

ゆ:
 .......なんか、おなか痛い。

も:
 興奮しすぎだよ(笑)。腹減ったし、もう出ようぜ。


完結編につづく!



【参考】 日経アーキテクチュア 1995年11月20日号 P.117



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