ばかのじう
<後編>
ここからのつづきです
ゆ:
あ〜、やっとこのブキミな世界から脱出できたな。けっこう、なんか精神的にダメージ、っていうか、ヘコまされたよ。おれ。
も:
いや、考え過ぎだって。おまえみたいにゲッソリして出てくる人なんか全然いないじゃん。やっぱ、あのパンフレットをウカツに読んじゃったのが敗因だな。
ゆ:
しかし、個人の思念をここまで形にできるっていうのは、ある意味すごいよな。精神的にも、政治的にも、経済的にも。
も:
確かに、このインパクトに打ちのめされたっていうのは認めざるを得ないよな。こういうものを創り出すアーティストっていうのは、やっぱすごいってことなのかな。
ゆ:
でも、こういう「個人の内面の業」みたいな重いもののインパクトで人を驚かすのだけがアーティストの仕事じゃないだろうに。だいたい、この作品のコンセプトを丸ごと受けとめて、誰か幸せになるやつ、いるのか?。
も:
確かになぁ。「鈍くなった感覚・感性を取り戻す」みたいな目的は全然OKなんだけど。手段としてこれがベストなのかなぁ、って気はするよな。ちょっと「ヘタ」って感じするよな。
ゆ:
やっぱ、何も考えずに走り回る子どもが、一番ここで幸せな存在なんだろうな。
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ゆ:
ところでさ、入るときにチラっと見えて気になってたんだけど。この出入り口のチケット売場の所にある、これ、なんだ?。
も:
「反転地グッズ販売」?。
ゆ:
は、「反転地グッズ」!?。「グッズ」だとぉ?。散々、こんな内蔵みたいなもん見せといて、グッズときたか!?。
も:
おい、しかも、これ。見てみろよ。
ゆ:
ちょ、ちょうちん?。あの、全国どこでも売ってる?、ペナントの流れを受け継ぐ「ばかみやげ」ベスト1の?。
旅行好き夫婦経営のスナックとかに、これみよがしに何十個も飾ってある、あのちょうちん?
も:
ぎゃはは。なんなんだこのギャップ。今まで「世界の変革!」とか、眉間にしわ寄せてたのに。ちょうちんがお出迎えかよ〜(笑)。
...おい、なにうなずいてんだ?。
ゆ:
うんうん、なんか安心するよ。やっぱこうでなくちゃな。これが正しいニッポンだよな(笑)。おー、なんか元気でてきたよ。
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も:
腹減った。メシ食おうぜ。
ゆ:
...と思ったら、おい、こんなところに屋台村ができてんぞ。すげー数だな。
も:
地元の人が出店してるんだろ。反転地も、これでなかなか観光資源として地元に貢献してるってことだろ。
ゆ:
おい、あ、あれ、見ろ!。
も:
なに?、またなんか変なものあったのか?。
あっ、あれはっ!。
ゆ:
は、は、「反転地うどん」!?。今度は、うどんか?。
も:
ぎゃはは、「味自慢!名物 反転地うどん」ってか(笑)。よし、おれ、絶対食うぞ。これ頼も!。
ゆ:
おー、揚げジャガとうどん!。この昼飯のしょぼい感じがいかにも「観光」って感じでいいなぁ。
も:
....でも、なんか別に、普通のうどんやんか?。どこが「反転地うどん」なんだ?。
ゆ:
やっぱここも結局は、運転疲れの親父、イライラする母ちゃん、車酔いの妹、そして、揚げジャガとうどん。こういう風景が似合う、立派な「観光地」ってことだよな(笑)。なんかホッとしたよ。
も:
ああっ?、これはっ!?。
ゆ:
なに?、なにが出た?。
も:
食い進んでたら、どんぶりの底から、揚げが出てきた!。
あっ!、ひょっとして....。
ゆ:
....ひょっとして、具と麺が逆さに盛ってあるから「反転」っていう落ち、かな?。
も:
うん....、おれもそう思った、今。
ゆ:
..........
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ゆ:
おい、なんかイベントやってるぞ。
も:
「養老天命反転地 開園一周年記念 秋の養老園遊会」だって。
ゆ:
「坂本冬美の歌まねショー」??。「琴演奏」??。その繰り返し?。
も:
しかも、「琴演奏」、中止って書いてあるぞ。雨降ってきちゃったからだろうな。
ゆ:
じゃぁ、「坂本冬美の歌まねショー」だけ?。まぁでも、坂本冬美が来るならすげーよな。
も:
違うよ、よく見ろよ「出演:FUYUMI」って書いてあるぞ。
ゆ:
...誰、それ?。
も:
やっぱ、坂本冬美のそっくり芸人かなんかだろ?。
ゆ:
うわぁ、寒〜。しかも、「FUYUMI」って。
「YAWARA!」みたいでやだなぁ(笑)。
も:
しかも、これ、客がいねーよ。雨、降ってるしな〜(泣)。
も:
う〜、つらい風景だなぁ〜。FUYUMIもつらい仕事やな〜(泣)。
おっちゃん、おもわずFUYUMI応援しちゃうよ。
ゆ:
しかしなぁ、あの偉大(笑)な芸術作品の一周年イベントなのに、このしょぼさは?。ものまねタレントって。
も:
いややっぱ、「極限で似て非なるフユミ」ってことだろ(笑)。
ゆ:
ち、ちなんでんのか!?、実は(笑)。深いな〜。
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ゆ:
おい、ほら、公園のトナリの遊園地のタワーで、ゴリが手ぇ降ってるし(笑)。
も:
やっぱ、あの反転地だけが相当浮いてるんだろうな。まわりは堂々たる「ニッポンの観光地」の風景だもんな。
ゆ:
作者にしてみれば、世の中を変えるぐらいのイキゴミで作った自分の作品が、提灯やうどん、ものまねショーやゴリなんかに囲まれてるっていう現実は、どうなんだろうな?。
も:
ある意味、まるっきりの「逆ズリネタ」だもんな(笑)。上目づかいで「新しい文明をつくり出す!!」とかタクラんでるところに、突然、ハゲズラかぶらされるみたいなもんだろ(笑)。
ゆ:
いやぁ、ゴリの方が、先にここに居たわけだしさ。「芸術だか何だか知らねぇけど、後から来てエバんじゃねぇよ」、感じじゃねぇか?。ゴリとしては(笑)。
も:
「オレの客、取んじゃねぇよ!」とかな(笑)。
ゆ:
いや、まじめな話し。ものまねショーやゴリの方が、標準なんであって、反転地の方が異常発達しちゃってるんだと思うよ、やっぱ。その辺のバランスが今一実感できてないんじゃないかな、反転地側の人達には。
も:
ヘタすると、「低レベル」扱いされそうだもんな。「この芸術を解さないとは、チミたち、わかっとらんなー」みたいに(笑)。もしそんなんだったら、まず地元の人達にメチャメチャ失礼だよな。
ゆ:
まぁ、作品がどんなに高尚だろうとなんだろうと、そんなのは一切無視して、どんどん反転地をネタに稼いでほしいよ。地元の人には。それは全然悪いことじゃないよな。
も:
作品をどう理解するかは、もう完全に個人の好みだな。いいか、悪いか、じゃなくて、好きか、嫌いか、だろ。
ゆ:
オレにとっては、とにかく、「感性の回復」みたいな目的はすごくよく分かるんだけど、あらゆる面で、スワリが悪いというか、なじみが悪いというか...
も:
確かに、違和感、て印象が強い施設だったよな。なんかこう、ちょっとした見せ方が「ヘタクソ」なんだろうな。おしいけど。
ゆ:
あー、なんかでも、うどん食って、ゴリとかFUYUMIとか見てると、反転地で受けた感性のダメージが、なんだか回復してくるよなー。
も:
あはは、そりゃぁ、話しが逆だっつーの!(笑)。