#008

ソウルおジャ魔女 '78


 放映開始からすでに3ケ月経って、もうトックにアチコチで話題ですが、「おジャ魔女ドレミ ドッカ〜ン!」(東映アニメweb朝日放送web)の主題歌『Dance! おジャ魔女』(作詞:もちよりこ、作曲:小杉保夫、編曲:山中紀昌)に打ちのめされてます。いや、参った。これはスゴい。前作の『おジャ魔女でBAN! BAN!』にもかなりヤラれましたが、今回は輪をかけてキました。30代のハート、ワシ掴みです。当然、この曲にはそういう「30代ワシ掴み」な仕掛けとネタが、ざくざく埋まってるわけです。ちょっと掘り起こしてみましょ……っと。

 まず、第一印象で「おおぉっ!?」と思わせる、曲の表層に漂う感触ですが、これはすでに多くの方が気づいているように「70〜80's歌謡曲」の見事な擬態。一聴して、いろんな過去の名曲がザバザバ脳内検索された人も多いのでは? 私の頭の中では、こんな感じのものがフラッシュしてました。

 ○『春一番』キャンディーズ         (詞・曲・編:穂口雄右、'76)
 ○『モンスター』 ピンクレディー      (詞:阿久 悠、曲・編:都倉俊一、'78)
 ○『カメレオン・アーミー』 ピンクレディー (詞:阿久 悠、曲・編:都倉俊一、'78)
 ○『シンデレラ・ハネムーン』 岩崎宏美   (詞:阿久 悠、曲:筒美京平、編:筒美京平、'78)
 ○『悲しき願い』 尾藤イサオ&ドーン    (詞:タカオ・カンベ、作曲:Benjamin/Marcus/Caldwell、編:萩田光雄、'78)
 ○『ほれたぜ!乾杯』 近藤真彦       (詞:松本隆、曲:筒美京平、編:後藤次利、'82)
 ○『誘惑光線・クラッ!』 早見優      (詞:松本隆、曲:筒美京平、編:大村雅朗、'84)
 ○『ヤマトナデシコ七変化』 小泉今日子   (詞:康珍化、曲:筒美京平、編:若草恵、'84)
 ○『DESIRE -情熱-』 中森明菜       (詞:阿木燿子、曲:鈴木キサブロー、編:椎名和夫、'86)



 一番目立つメロディ上の話では、やっぱり、ピンクレディーの『モンスター』ですよね。これはもうバッチリ。導入メロとサビメロにくっきり影が見えますけど、巧妙なのは、その前後関係を入れ替えていること。くぅ〜 ……ウマいっ! あとスゴいとこでは、「だ〜れのせいでも、ありゃしない〜、みんなオイラが悪いのさ〜」で、知られる尾藤イサオの『悲しき願い』なんかの曲の片鱗を感じとった人とか、いないですか? え? 深読みしすぎ? そんな感じで懐かしき'70〜80's歌謡曲の栄養がたっぷり含まれていて、これだけでかなりお腹イッパイ。ですが、実はこれらはまだ表面上の話でしかなくて、大事なのはこっから。『Dance! おジャ魔女』 → 『'70〜80's歌謡曲』のさらにその奧に…… そもそも、こういう歌謡曲たちがベースにしていた、『70'sディスコクラシックス』という第3層があるのです。これこそがオトナのハートをガッチリ掴んで放さない核心部分。

 70年代中頃、「ディスコ」というよりも、なぜか日本では変なカタチで「ソウル・ミュージック」と呼ばれていたアヤしい曲群がありました。欧州産、ダサかっこいい系のセンス、4つ打ちのベタなグルーブ、ヘンにオリエンタルな響きのメロや早弾きストリングス、アーティストではなくプロデューサー主導型(言い換えれば企画モンくささ)、なんとなくアっタマ悪そうなイメージ(笑) ……等々、その多くがまぁこんな感じの特徴を持ってました。「ソウル」の名を冠しながらも、米黒人R&Bの系統とは、真逆の位置にあったヨーロッパの白人系ディスコサウンドです。

 代表的なアーティストとしては、ジンギスカン(西独)、アラベスク(西独)、サンタ・エスメラルダ(仏)、バンザイ(仏)、ホットブラッド(仏)等々。で、『Dance! おジャ魔女』の深奥からは、これらと同じカヲリがすごいしてくるんですよね。多くの人が一番ピンとくるのは、ジンギスカンの『ジンギスカン』でしょう。あの「ウッ! ハッ! ウッ! ハッ!」や、「ジン!(ぴょい)ジン!(ぴょい)ジン、ギスカ〜ン」なんかの、ばかガス爆発な悪ふざけノリ。しかしナゼか聞いてて安心する、日本人のリズム感と親和した、頭拍に置きっぱなしのアクセント。「フンチキフンチキフンチキフンチキ、フンチキフンチキフッ…ハっ!」みたいな、4拍目に合いの手を入れずにはいられない、この感覚。コレですよ、コレ! 『Dance! おジャ魔女』の奥底に流れるこの"ノリ"、コレが70'sユーロ系珍ディスコのニオイです。

 『Dance! おジャ魔女』の表面をコーティングしてる、ピンクレディーの『モンスター』、それに続く『透明人間』『カメレオンアーミー』の「バケモノ3部作(笑)」は、ユーロ系珍ディスコの起爆剤であったホット・ブラッドの『ソウル・ドラキュラ』、『怪傑!ソウル・キャット』(←なめてんのか?)、キャプテン・ダックスの『ソウル・フランケンシュタイン』(全部'76)の流れを汲む「怪物+ディスコ」の終結点なわけだし(そうなのか?)、さらに続く「やりたくなったらやっちゃいな!」の『ピンクタイフーン』は、ビレッジ・ピープルの『In The NAVY』のカヴァー、と、ピンクレディー×都倉俊一自体が白人系ディスコの絶大な影響下にあったわけです。さらに、筒美京平は、自分自身で『セクシー・バス・ストップ』(インスト版はオリエンタルエクスプレス、ヴォーカル版は浅野ゆう子(笑))なんてヒットをとばすほどこの手のディスコに染まった人。マッチの『情熱★熱風 ) セレナーデ』(詞:伊達歩/曲:筒美京平/編:大谷和夫/'82)は、 カール・ダグラスの「Kung Fu Fighting(吼えろ!ドラゴン)」というアジア系ばかディスコにあまりにクリソツだったり。で、尾藤イサオの『悲しき願い(Don't Let Me Be Misunderstood)』は、そもそもはアニマルズという英のバンドがオリジナルで、尾藤イサオはロカビリー時代の'65にカヴァーしてるんだけど、我々がよく聴いて知っているあの曲調は、サンタ・エスメラルダが'77 にカヴァーしたディスコアレンジ風のものを尾藤イサオが再トレースしたものだったり。 ……というふうに、だんだんと外堀が埋まって来ましたが、『Dance! おジャ魔女』という表層、その下に見え隠れする歌謡曲のイコン、さらにその下には、ユーロ系珍ディスコの濃〜いエッセンスが沈んでる、という感覚、分かってもらえます? そう、まるで「ますたにラーメン」の背脂/鶏ガラ/辛味の3層構造スープのよ(大きく脱線したため以下略)

 このあたりのディスコに興味のある方には、これがお薦めです。 → 『70’s ディスコ・ヒット 』
 なんだか高速道路のサービスエリアで売ってそうな、見た目チープなコンピ盤ですが、上記のようなユーロ系ディスコのアホっぽさを満喫するには、なかなかツボを突いたセレクションです。この辺のディスコサウンドは、渡辺宙明ファンにとっても、ハッキリ言って超必須アイテムなんですが、それについてはまた後日・・・・

(2002/05/10) 

 (※#009へ続く・・・)

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