#009

テクノおジャ魔女 '84


 (※#008からの続きです。)

 近年、モーニング娘。やダンス☆マン等で、70'ディスコクラシックスを真正面から意識してヒットする曲は確かに多いんで、「おジャ魔女」の新主題歌として、この路線は当然のネライどころです。そうなんです。そう、ではあるんですが…… ちょっと待て。なんか、微妙に『Dance! おジャ魔女』の聴感とそれらの曲とは違う印象がしませんか? 前ページの一覧を見ても分かるとおり、ディスコ全盛期から外れた80年代中頃の曲のイメージが混ざってるところがミソ。そう、『Dance! おジャ魔女』は、モーニング娘。やダンス☆マンほど「ベタなディスコ」じゃない、なんだか微妙に涼やかな耳触りなんです。これは、歌のメロディは70年代でも、オケの作り方、特に各種楽器の「音色」が80年代になってるという、アレンジ面での「時代設定」の差から生じた印象ですね。曲のボディ自体はディスコでも、羽織ってる上着は、シンセの革命時期とテクノポップを通過した後の、シャープでカチっとしたより現代的な音になってるわけです。ディスコ狙いとは言いつつも、その取り込み方が奥ゆかしいというか、ベタを避けて、聴感としては耳新しさを保っていて ……と、実にウマいです。こういう「テクノ後のディスコ・リニューアル」といった風情の曲は、当時は筒美京平の独壇場でした。そんなわけで、『Dance! おジャ魔女』に投射されている歌謡曲イメージの実像とは、『モンスター』よりも、むしろ『ヤマトナデシコ七変化』に近いのではないか……とか思えてきたりします。

 が、さらにここでもう一ヒネリ。『Dance! おジャ魔女』の、このオケの音、80年代中頃の電子楽器の音とは言っても、分厚いアナログシンセのウォームな響きとか、豪華な多重のFM音源のエッジの立った音とか、そういう当時の第一級の音…… ではないんですよね。なんというか、当時の中高生がなんとか手に入れることの出来る安い廉価機種の、かなりチープな音。この感覚が、なんともたまらないわけです(オレだけ?)。特に、リズムの基本になってる、リズムBOXとドラムマシンの中間のようなチャカポコした音は、80年発売のローランドの名ドラムマシン「TR-808」 ……じゃなくその下位機種の「TR-606」に似た、なんとも懐かしい音。ただし、TR-808というのは、90年代のハウス/テクノでもリズムトラックの主役を張った永遠の番長マシンでして、下位機種のTR-606も含め、最新の各種デジタル音源の中にもセットされているほど、現在でもごくフツーに聴ける珍しくもなんともない音です。なのに、なぜ『Dance! おジャ魔女』のリズムは、「懐かしい」と思えるのか? それは、90年代に出来上がってしまった、ハウス/テクノ系におけるTR系音色の使い方のスタイルにとらわれてないから……ですね。現在の4つ打ちモノ(バスドラムが4拍全て入るリズム)の当たり前の「型」にハマッたリズムの作り方は、すでにイメージに金属疲労がタマってて、あんまり新しさを感じません。80年代末に、ハウス/テクノの始祖達がTR-808という10年前の音に再び脚光をあててから、さらにもう10年経ったわけです。もういい加減、「2周目」の時代は終わってなくちゃイカんのよ。そういう意味で『Dance! おジャ魔女』のリズムの作り方は、10年前ではなく、20年前の原点の音を想起させてくれる、言わば「3周目」の新鮮さを味わわせてくれる音なんですよ。って、そこまで言うとものすごい革新的サウンドみたいなんで言い過ぎかもしれませんが、少なくとも、そういうものの予感くらいはさせてくれる音ですね。試しに、『Dance! おジャ魔女』と同じ小杉保夫氏作曲の『爆闘宣言!ダイガンダー』を聴いてみてくださいな。いやぁ、悪い例として取り上げて恐縮ですが、10年前から続く定石パターンに巻き込まれたままのダラダラしたアレンジというのは、まさしくこういうモノです(笑) 延々と無表情に繰り返される、おきまりのリズムパターン。小杉氏の王道メロと遠藤正明の熱唱を、ここまで帳消しにするとは…… 同じ作曲家でもアレンジによってこういう違いが出るわけです。「編曲という作業」、「ディレクターの采配」の意味の大きさをつくづく実感します。

 話しを『Dance! おジャ魔女』に戻しますが、イントロ・間奏・後奏でソロを取る、「にせものハーモニカ」みたいな音。あれにはYAMAHAの「CS-01」とブレスコントローラーを思い出さずにはいられません。ブレスコントローラーというのは、キーボードに接続して、音を出しながら息を吹き込むとボリュームや音色に変化が加わるという特殊なインターフェイスで、直線的な演奏表現しかしにくいキーボードにおいて、管楽器のような細かなニュアンスを出せるという、当時としては画期的なシステムでした。これ、実は今でも生き残ってまして、よくS.E.N.Sの深浦昭彦氏がLIVE演奏で、すごいウットリ顔で鍵盤弾きながらヘッドホンから伸びたマイクを口にくわえてることがありますが、あれ、マイクじゃなくてブレスコントローラーなんです。くわえていいものなんです(笑) 現在のものはこのインカム型が主流ですが、80年代のものは、この写真にも映ってるようなゴチゴチしたカタマリでした。当時、少年チャンピオンで、『気分はグルービー』というバンド漫画を連載してまして(コレと『TO-Y』は、我々の世代のバンド男にとっては、もうバイブルですが(笑))、その第1巻(82.7初版)の表紙で、ヒロインの寿子がクビから下げてるのがまさしく「YAMAHA CS-01」、口にくわえてるのがブレスコントローラー。ヒロインの手持ち楽器として表紙に登場するなんて、いかにこの演奏スタイルが当時のアマチュアバンドの間でカッコいいものであったかが、わかるってもんです。『Dance! おジャ魔女』のあの「にせものハーモニカ」の音の微妙なじんわり感や、手弾き演奏を思わせるモタツキは、まさしく当時のブレスコントローラーの音・・・ その他、リズムの裏拍を取ってるクラビっぽい音やシンセベース等も、いやー、安い! 当時持ってた機材で、こういう音出せるような気がするのよ、ほんと(笑) (まぁ、実際には絶対に出せないけど。それほど作り込まれいるのです、この曲のオケは……)  というわけで、要するに『Dance! おジャ魔女』を構成してるチープな音たちは、ワタシのような、当時中高生のバンドでこういう楽器をいじっていた者にとっては、「ようやく自分のモノに出来た電子音」……という特別な想いのある音なんですよ。そんな感じでこの曲の音を聴くと、なにかこう、懐かしのオモチャに感じるのと同じような気持ちがふんわりと浮かんできたりするわけです。

 まったくもぅ、一体、どの年代をターゲットに歌作ってるんだか。降参です(笑) ……いや逆に言えば、ターゲットたる未就学幼児〜小学生の親の世代を、それだけ明確に意識した作り方なわけです。メロやアレンジに、そういう目的意識がガンガンに注入されてます。誰のハートをワシヅカムつもりなのか、さらにそれを延長・拡大するヒネリをどこまでツッコめるか…… 多くの世代にアピールできる曲とは、こういうことを綿密に考えて(あるいは、こういうことを無意識にコナしてしまう天才によって)作られているわけです。まさしく、我々はいいカモです(笑) オトナに受けるかどうかを意識するなんてのは、子ども番組の主題歌の作り方としては邪道……みたいな意見もあるかもしれません。が、言い尽くされた表現ではありますが、「子どものためのもの」と「子どもダマシのもの」とは大きく意味が違うわけです。オトナも唸らせるような、音楽として良質で、新しいモノを生み出そうという意志に満ちているものは、やっぱり子どもにとってもイイモノなんだと、ワタシは思いますよ。事実、良質なアニメソングとして今なお語り継がれてるものとは、それぞれの時代のそういう要求に、見事に応えてきたものばかりですよ。

 30代のハートわし掴みとか言いつつ、途中までは一般論として通じましたが、結局途中で、バンドや楽器への個人的な思い入れの話しになっちゃってスミマセンでしたね。でもこの感覚を分かってくれる方、きっといると信じております(^-^; 

(2002/05/10) 



#009
top > monologue
musi-caf'e
(c) RYO-3 2001