クントゥル・ワシの遺跡へ

村には宿泊施設もなく、調査のじゃまをしても悪いと思い、カハマルカから車で10分のBanos del Inca(インカの温泉[インカ最後の皇帝アタワルパも訪れたといわれる温泉])にホテルを取り、友人と二人、車とガイドさんを頼むことにした。
9月8日、リマからカハマルカへ向かう飛行機の出発ゲートで「日本人の方ですか」と声をかけられた。見ると、大貫教授ではないか(以前、講演会に参加したので先生のお顔を知っていた)。先生といっしょだったのと、週末は調査団の人たちはカハマルカのホテルに滞在していることもあり、空港では大勢の出迎えを受け、Tさんにも久々に再会。毎日元気に発掘しているようだった。この日は彼らと一緒にお昼を食べ、彼らはクントゥル・ワシへ。私たちは翌日の朝6時に出発した。

……これが遠い!車で3時間ぐらいとは聞いていたが、ただ3時間平地を走るわけじゃない。高度3000メートルの山を登って下ってまた登り、ほこりだらけのくねくね道を延々と進むのだ。日本の緑の山々を見慣れている目には、植林をしなければ木が1本も生えないような荒涼とした灰色の山を見ると、面白いと思う半面、殺伐とした気持ちになってしまった。それに、どうやら高山病になってしまったようだ。日本からの25時間の長旅の疲れもあるかもしれない。
でも、ガイドのマニュエルさんは英語が話せるので助かった。こちらは思ったより英語が通じなくて、スペイン語で苦労していたのだ。昔習ったというわりには、単語は忘れてるし、難しい文法を習うより、旅行のためのフレーズを丸暗記したほうが役立つことを実感。


午前10時前、もう限界という頃にやっと村へ到着。博物館が見えてきた。これがあの博物館かと思うと疲れも吹き飛ぶ。しかし、現場へ行くにはさらに歩いて登らなくてはならなかった。たいした距離じゃないのに、ゼーゼーと息切れがする。マニュエルさんは遺跡だけでなく植物にも詳しく、歩きながらいろいろと説明してくれた。遺跡は山の頂上にある。紀元前1000年ごろに造られた神殿で、まだ調査中だが、当時は神殿を中心とした文化が広がっていたらしい。遺跡のあちらこちらに無造作に建っているように見える石彫の彫刻がすばらしい。

30分近く山道を登り、頂上にたどりつくと、360度見渡せる場所に現場があった。私まで神聖な気持ちになってしまったのは不思議だが、何となく”天に近い場所”という気がする。私たちは息を切らしてヘロヘロになっていたというのに、調査団のメンバーは元気いっぱい。この日も墓室から遺体と副葬品の土器が発見されたらしい。こちらにもその高揚した雰囲気が伝わってきた。命綱をつけて地下に降りたりもする。炎天下、しかも高い高度の土地で、日本人スタッフも、現地の作業員さんたちも、生き生きと働いていた。Tさんは「今年は、かなり充実した調査ができたので、時間が足りないぐらい。本当はもっと長く残りたいぐらいなの」と言っていた。見た目はニコニコしたかわいい女の子なのに、自分が打ち込める道をまっすぐに進む彼女は本当にかっこいい。




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