熊の尻尾はなぜ短いか?

これはマレーシアの民話です。マレーシア文化の調査をしていた19世紀のオランダの学者のおかげで、忘れられることなく今日に伝わっています。
元のストーリーは、まだインドネシア語に翻訳されておらず、マレー語で書かれたものしかありません。





ある日の午後、ネズミジカは穴の中に座って木の実をかじっていました。そこへトラが近付いてくる音が聞こえたので、ネズミジカはてっきり自分を襲おうとしているのだと思いました。

恐怖のあまり震えていたネズミジカは、とっさにいいことを思いつきました。彼は木の実をポリポリとかじりながら、こう言ったのです。「ああ、トラの目はおいしいなあ!」。
それを5回繰り返し言いました。
ジャングルの王であるはずのトラも、これを聞いて、恐れをなして引き返して行きました。

引き返す途中で熊に会い、トラはこう尋ねました。「おい、熊よ。あそこの穴の中で、トラの目を食べているやつがいるのを知っているか?」
「知りません、王様」。
「それじゃ、見に行こうじゃないか」とトラは言いました。
「でも、怖いですよ」と、熊は答えます。
「心配するな。ずっと一緒にいてやるから。お互いの尻尾を結んでしまおうじゃないか。そうしたら何かあってもひとりじゃないぞ」。



そうしてトラと熊は互いの尻尾を結び、穴の中の強大な敵に向かって用心深く歩いて行きました。
穴の中のネズミジカは、今度はトラと熊が同時にやってくるのを見て、ひどく驚きました。
すばやく考えをめぐらせると、こう叫んだのです。「おや、大食らいのトラじゃないか。あいつの親父がオレの白熊を食べちまった代わりに、黒い熊を返しにきたんだな。おおい、こっちだぞ。早く来い」。
熊はビックリしました。「こいつはトラのワナだ! 親父の借りを返すのに、オレを利用するつもりなんだ!」。

熊が大あわてで立ち上がろうとしたひょうしに、尻尾で結ばれているトラは転んでしまいました。
そこでトラは、熊の尻尾を思いっきり踏みながら飛び上がったのです。熊は地面に転がり、その尻尾はちぎれてしまいました。

こうして熊の尻尾は短くなってしまったのです。 利口なネズミジカは、機転をきかせて2度の危機を乗り切りました。

マリオ・ルスタン



ネズミジカ
ネズミのように小さいシカです。もう一つのネズミジカのお話へどうぞ!





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