日 本社会の景気はなぜ戻らないのか?!

-最悪の者が指導者になる理由-
 

厳しい景 気が続いている。ここまで、景気が落ち込んでいるのに、日本人は呑気なもんだ。景気が悪いのに気付いていないのか、それともあきらめているのか、景気の良 い時と同じような生活を満喫している人が多い。

そこでハタと考えた。景気が悪いのは、日本人の心が景気の悪い方向にシフトチェンジしているからではではないのか。車が前に走ろうとすれば、ギアをまず切 り替えなければならない。どんなにアクセルを踏んでも、ギアが切り替わっていなければ、空ぶかしで、エンジン音がブーブーと鳴るだけだ。

そこである本を読んだ。F・A・ハイエク(1899〜1992)という経済学者の本だ。彼は1974年に景気変動理論の理論と経済制度の分析でノーベル経 済学賞を受賞した人物である。第二次大戦中、ハイエクは、「隷属への道」(西山千明訳 春秋社1992年刊)という非常に示唆に富む本を書いた。

その第十章に、「なぜ最悪の者が指導者となるのか」というテーマで話が展開する。実に刺激的なテーマだ。その十章の扉には、「すべての権力は腐敗する。絶 対的な権力は絶対的に腐敗する」というアクトン卿(英国の政治家)の言葉が添えられている。

「強力な政党は人間の下等な部分によって組織される」
これは、組織というものが強大に強力になればなるほど、その組織というものは、非民主主義化し、そこに集う人間たちの合意可能な下等な理屈で、運営される という組織の宿命を語った言葉だ。ハイエクの言葉で言えば「一般に教育や知性の水準が高くなっていけばいくほど、・・・人々が意見を一致させる可能性が少 なくなっていく、」そこで組織は、「より原始的で『共通』の部分」へと視点を下ろしていくというのである。

ハイエクは、ヒトラー全盛の時代を生きた経済学者である。ナチズムという非常に稚拙で単純な民族主義的な思想が、全ドイツ国民を催眠状態に陥れ、全ヨー ロッパを吹き荒れた原因は何だったのか。そこには、小難しい理論や何かではなく、例えば、ユダヤ人をドイツ民族の敵と仮想するなど、非常に単純な宣伝が行 われている。

このような宣伝が成功して、ヒトラーは、歴史的な大犯罪を犯した。もちろんそれを許したのは、ドイツ国民だ。どんな魔法を掛けられたとしても、その責任を 逃れることはできない。日本もそれは同じだ。

民主主義という問題を確立し、組織あるいは一国が民主国家として、健全に機能するまでの過程は容易ではない。ともすれば、単純なそして原始的で幼稚な思考 こそが、組織をそして国家を危うくすることになる。

翻って、日本の戦後の政治状況は、どうだったか。単純に云えば、自民党という一党が、まるで任侠社会のような義理人情と金満体質で、日本を動かしてきた。 そのお先棒を担いで、おこぼれを頂戴した連中もいる。霞ヶ関の官僚たちだ。金にまみれた政治家と官僚が、日本の社会を食いものにしてきた。そして今や年金 は、厚生省のお役人上がりの連中によって、誰も行かない保養施設に化けて、底をついた。日本人がコツコツと貯めた郵貯はどうか。それはほとんど車も通らな いような地方のネコに小判のハイウェイや巨大な橋脚となって消えた。政治家の仕事は、第一に利益の地元誘導が主だ。その為に地域の首領(ドン)からニホン 政治の中枢に入り、庶民の血税を湯水のように無駄に使ってきた。そんな彼らは、決まって幼稚で原始的な発想で、権力の中枢に登り詰めていった。まさにハイ エクの云う通り「原始的」な政治スローガンが功を奏した。

二十一世紀に入った現在、この不景気日本をどのようにして立て直すのか。それには今まず、日本人の意識(心)を変える必要がある。政治状況も極めて宜しく ない。日本人は、好戦的なアメリカ大統領ブッシュの単純極まりないスローガンによって、首相小泉が、時にはがま口となり、また時には、ネズミを捕るネコの ような存在にされている現実をしっかりと見ておくべきだ。

世界は、国連という民主的な手続きを踏まず、全体主義的な傾向になって実に危険な状況にある。ハイエクの予言のように「隷属の道」を選んでは最悪だ。その 為にも、二十一世紀に生きる日本人は、自己の意見をキチンと持ち、どんな時にも諦めずに、その意見を発言する粘り強さが要求される。現在の日本社会の景気 回復は、面倒でも、日本人自身の個の確立があって初めて実現するものだ。いつ日本人は、民主国家において、空ぶかしばかりする初心者ドライバーである自分 に気付くのか?
佐藤

 


2004.1.6
 

義経伝説ホームへ

義経エッセイINDEXへ