追悼
ZARDの
坂井泉水
ジョン・レノンのように逝く




 ZARDのボーカル坂井泉水(1967-2007:さかいいずみ)とい うアーチストが死んだ。

彼女は、元々自分のことを世間に晒さないアーチスト(ボーカリスト)だ。熱心なファンでもない私はまったく、知らなかったが、去年の夏から子宮頸ガンの治 療に専念し、一度は退院をしたものの、今年4月に癌が肺へ転移し、再入院していたということだ。死因ははっきりしていないが、06年5月26日早朝、病院 の階段から足を滑らせて(?)頭を打って、脳挫傷とのことだ。

それにしても癌治療のレベルが日進月歩の勢いで進むなかで、肺への転移によって40歳で亡くなったのは、彼女の運命とは言え、突然過ぎる死で傷ましいかぎ りだ。

元々彼女は、ほとんどマスコミに自分を晒さないアーチストである。そのためか、神秘的なイメージが彼女をいっそう魅力的なアーチストにしていたことは確か だ。

それが、いきなり朝のテレビで、彼女のビデオクリップが、何度も繰り返し流されるのを見ながら、何だか、ジョン・レノン(1940-1980)の時のよう だな、と思った。ジョンの場合も、死はある日(1980.12.8)突然やってきた。熱狂的なファン(?)の凶弾に倒れたジョンの享年も、坂井泉水と同じ く40歳だった。

若すぎる突然の死に、ジョンの場合は世界中があ然として、やがて世界中が号泣しながら、「イマジン」を唱って故人を送った。同じ事が日本にも起こったとい う気がする。坂井泉水を愛するファンたちは、さすがに”坂井泉水のファン”らしく、悲しみを内に秘めて遠慮がちに故人に向かって「ありがとう」と静かに語 る。

ジョンの時には、新しいアルバム「ダブル・ファンタジー」(1980)を出した矢先のことだった。坂井泉水も昨年(2006)ベストアルバムが好調な売れ 行きを示し、久々の新しいアルバムを今週発売するプランもあったということだ。

私は彼女の熱狂的なファンではないが、その涼しげな容貌と清潔感溢れるイメージに、毎年勝手に行っている「日本一の美女」として、書いてみようかなと思っ たこともある。アルバムもたった一枚だが持っている。一番好きな曲はミーハーであるが「揺れる思い」である。

とかく、デビューした頃の初々しさは、どこ吹く風、きらめく才能はいつしか消えて、事務所やマスコミの着せ替え人形のようになってしまうアイドルやアーチ ストが多い中で、彼女はいつもはにかみがちに自分のスタイルを崩さなかった。薄化粧に、ストレートな髪の毛。歌唱力は特別にある方ではないのに、彼女の歌 は聴く者の心を心地よく流れるそよ風のようであった。

そして坂井泉水というアーチストは、あの清純で若々しい姿のまま、ファンの心の中に永遠に生き続けて行くのだろう。それにしても、日本は気取らず自然体で 等身大の自分をそのままに表現し続けた掛け替えのないアーチストを失ってしまったということだ。ひとつの喪失感が、日本人の心という大きな池に落ちて、そ の波紋が静かに拡がっていくのを感じる。




2007.5.29 佐藤弘弥


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