映画「ウォール・ストリート」を観た。1989年に公開された「ウォール街」の続編となる。監督はもちろんオリーバー・ストーン監督、主演は前作と同じくマイケル・ダグラスだ。

前作でインサイダー取引で逮捕されたダグラス演じる「ゴードン・ゲッコー」が、刑期を終えて、娑婆に出てくるシーンから始まる。顔には、深いシワが刻まれている。誰の出迎えもなく、ゲッコーは現実の世界へ戻ってくる。

今回の作品でも、監督のオリバー・ストーンは、独特の批判精神をもって、金融資本主義あるいはカジノ資本主義と揶揄されるようになったアメリカの市場社会の現実の姿を2時間強のフィルムに映し出すことに成功している。

ゲッコーは、刑務所の中で、市場優先のあり方を批判する本を執筆し、これを出所後すぐに発売し、すぐに時の人として、メディアに取り上げられるのであった。

ゲッコーは、「レバレッジ(テコの原理)を効かせて行われる投資のやり方は、癌という病と同じだ」、あるいは「この社会で人間が正気で居られるのは、投資 をしないこと。その意味で刑務所に入って人間性を取り戻すことができた」とも語る。しかしとてもゲッコーの本音とは到底思えない・・・。案の定、ゲッコー は、突然、昔のゲッコーに戻ってみせる。

今回の映画「ウォール・ストリートは、2008年のリーマンショックのエピソードを織り込みながら、アメリカ市場経済の凄まじい生態を余すところなく伝え ている。現実には、リーマンショックの時にも逆ばりの手法で、巨額の利益を出したゴールドマン・サックスという企業があった。

オリバー・ストーンは、この作品で、生き馬の目を抜くような市場社会の非常な現実を縦糸に、ゲッコーとゲッコーの激しい生き様によって、深い傷を負った娘との魂の結びつきを横糸に、映画を演出しているように思えた。

市場という怪物に身も心も奪われた格好のゲッコーにも、神は救いの道をちゃんと用意しているのである。娘の婚約者でウォールストリートの若き証券マンジェ イコブスが、ゲッコーと娘を結びつける役割を果たす。彼は海水発電をするベンチャー企業を支える夢を持っている。最後のところで、次に起こるバブルの中心 は、エコビジネスになる、と暗示するシーンがある。納得である。

マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーのアクの強い存在感の中にアメリカ自身の苦悩をみた。さすがはずっとアメリカ社会の矛盾を映画で表現してきたオリバー・ストーン監督、心に残るいい映画だ。


2011..2.5 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ