梅ヶ丘の梅を見る

ーモデル撮影会の喧噪と写真の美ー


世田谷の梅ヶ丘

世田谷 梅ヶ丘の「梅まつり」の喧噪
(07年2月12日 佐藤弘弥撮影)

連休最後の日、世田谷の梅ヶ丘に梅を見に 出かけた。小田急線梅ヶ丘の駅を降り、人をかき分けるようにして、公園をいくと、名所となっている枝垂れ梅の前が異様に人が群がっている。近づいてみる と、モデルの撮影会が開かれている。カメラを手にした多くのカメラ愛好者の人たちが、良い写真を撮ろうと、ろくろ首の形相となり、梅そっちのけで、モデル の若い女性にレンズを向けている。そのモデルが、また、媚びた笑みに、腰をくねっとさせてセクシーさを装っている。ひねくれ者の私には、その光景が妙に滑 稽に思えてしまった。「いったい主役は、梅なのか、モデルなのか?」と思ったのだ。大体、この手の写真というものは、たいてい美形の若いモデルの背景に、 ボケた梅が映るというような写真となるものである。そこで、私はその喧噪をパチリとやったのである。

公園の奥で、写真展を行っていたが、そこには、まさにモデルが物憂げな表情 で、レンズの方を向いている月並み写真が結構並んでいた。きっと、ご本人は、良い写真を撮ったと思っているのであろう。美しいものを撮ったところで、本物 の美は生まれない。これは芸術というものの現実である。展覧会の写真の中には、そんな月並みな作品だけではなく、梅を見に来た子供や老人たちの生き生きと した姿を写した写真が並んでいた。中でも、八十近い齢に見える女性三人が、焼きそばをほおばっている前で、三毛猫がちょこんと座っている写真が印象に残っ た。しかも、このネコ、さすがは愛想のイイ犬とは違って、「頂戴?!」というような表情は、一切していない。あくまで、「もしくれるならもらってやるよ」 というような不敵なツラをしている。そのネコを見て、大笑いしているおばあさんが映っている。それにつられるように、他のふたりも笑いかけている。その笑 顔のバランスがとても「自然」でいい。私は思わず「美しいね、これ」と呟いた。少し離れたところには、こんな写真もあった。どうやら、先ほどの「くれるな らもってやるぞ」の不敵なネコが、子供たちの横にまたまた映っていて、やっぱり「くれてみろ」という態度である。面白すぎである。私は吹き出してしまっ た。写真には、もちろん色々考え方があっていい。モデルの写真も作品として月並みのレベルを離れて正当化できた作品があるかもしれない。しかしやっぱり 「自然」な人間の営みをごくごく自然に映し撮った写真が私は好きである。


2007.02.14  佐藤弘弥

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