いったいトヨタで何が起こっているのか。

このところ、アメリカを中心にトヨタ車に関するリコール問題を契機として否定的な報道が過熱している。さらに今度は、アメリカについで日本でも、トヨタの ブランドイメージの象徴とも言えるハイブリット車「プリウス」にまで、ブレーキの不具合があるとの報道までなされた。こうなると、今回のトヨタ・リコール スキャンダルは、アメリカからヨーロッパ、中国、インドなど全世界に波及し、トヨタ車のブランドイメージが急速に失墜する可能性が出て来た。いやそれどこ ろか、トヨタという巨大企業が、嵐のような逆風の中で破綻する可能性だってゼロではないかもしれない。

マラソンレースにたとえてみれば、トヨタは、販売台数で世界一になった途端に、こけてしまったようなものだ。すると瀕死の状態に陥っていたGMやフォード などのアメリカ自動車産業界は、この時とばかり、トヨタ車からの買い換えに「キャッシュバックキャンペーン」を実施するという具合である。

何故、このようなことが起こってしまったのか。どうも原因はひとつではないように思われる。

トヨタに関するひとつのエピソードが、ずっと私の中で、数年間くすぶってきた。それは去年の暮れに、トヨタ車の不具合(フロアマットにアクセルペダルが 引っかかる恐れ)が報道される3年前のことだった。アメリカに行った知人が、日本に帰りしな、このように言った。

「驚いた。アメリカでトヨタのカムリの新車に乗ったのだが、まったく日本のものとは違っていた」というのである。どうしてと私が聞くと、「いや、エンスト して、ボンネットを開けて見たが、エンジンの下に道路が見えるんだよ」と彼は語ったのだ。確かに、日本のカムリクラスの車は、ボンネットの中は、エンジン やら何やらで、下が見えるようなものはない。

つまり、日本仕様とアメリカ仕様は、車種は同じでも、まったく違うということになる。これは企業としては、日米では車をめぐる法律や、部品調達企業も日本 のようにトヨタ系列の企業で占めるわけにはいかず、致し方ないのかもしれない。そもそも、日本で新車のカムリがエンコするなど、考えられないことだが、実 際には、日本ではあり得ないことが起こったのである。

もちろん、このエピソードをもって、アメリカ製のトヨタ車の性能が低いという評価を下すことはできない。しかし現実の問題として、起こったことは間違いな い。トヨタ車の不具合については、アクセルペダルを覆うフロアマットの問題との指摘である。そしてこのマットは、アメリカ企業によって供給されていると聞 く。したがって、日本のトヨタ車では、確認されていない不具合だという。だが、ここに来て日本製の「プリウス」にも、ブレーキの不具合が指摘されてきたこ とは、トヨタスキャンダルが新たな段階に入ったことを物語るものだ。

去年から再三指摘されてきたこのトヨタスキャンダルについて、何故トヨタが、集中的に対処して来なかったのか。はなはだ疑問が残るが、この裏には、トヨタ が世界一の販売台数を誇るメーカーになったこと。もうひとつ、世界的な環境問題の追い風を受けて、ハイブリット車「プリウス」が世界的大ヒットしたこと で、ある種の驕りがなかったとは言えないだろうか。

品質で勝負してきたトヨタが、今回のスキャンダルによって、どのようなダメージを受けるかは未知数だ。アメリカの消費者が、今回の件で単純にトヨタ車を排 除して、単純にアメリカ車を選ぶとは思えないが、バイ・アメリカン(アメリカ製品購買)の動きが、各地で巻き起こる可能性は十二分にある。

ひとつだけ、はっきりしていることがある。それは問題が起こってからの初期対応の遅れだ。つまりトヨタの経営姿勢の甘さが、問題をここまで大きくしてし まったということになる。経営トップにまで、今回の事件の真相が正確に伝えられていたのか。絶好調にかまけて危機管理に甘さが出たと言えないだろうか。

ここに来て、トヨタの経営陣が取るべき選択肢は意外に少ない。それは初期対応の遅れを素直に認め、全世界のトヨタユーザー(購買者)に向けて、「安心と安 全のために全力を尽くす」とアナウンスすることだ。そしてこれを着実に実行にうつすことだ。それよりほか、トヨタブランドが信頼回復へ通じる道はない。

2010.2.4 佐藤弘弥

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