子供投資家って何?

−未熟な親が未成長な子を増殖する日本社会の悪しき構図−


1 株は子供の 心の成長を阻害する?!

「子供投資家」という言葉があるのをはじめて知った。何のことかと言えば、ある子供が親からライブドアの株を少し もらって、5千円ほどの利益が出たのに気をよくして、今回の事件が起こる直前、700円近くの値段で、同株を10株買って、今回のライブドアショックで大 損(?)をしてショックを受けているという話であった。

ライブドアは、自社株を百分割し、購入できる単位株を一株とした。このことによって、「子供投資家」だか「少年投 資家」だかが世に発生する土壌を作ったことになる。さて子供でも株を購入できる株式市場のあり方というものはいかがなものか。

親は、30代の半ばであろうか。株を子供にプレゼントであげるという感覚が理解できない。おそらくこの親子は、イ ンターネットで、本日の株価の動向をみたり、チャート分析でも行って楽しんでいるのであろうか。

子供の心の成長というものがある。子供は段階をおって、人間になって行く。どうもこの親子の構図を考えてみると、 親そのものが、健全な心の成長を遂げぬまま親になってしまって、自分の未熟な価値観を子供にダイレクトに押しつけている気がしてしまう。もしかすると、こ の構図は日本社会のすべてに当てはまる悪しき社会構造かもしれないと思う。

昨今の様々な常識を越える事件の背後には、この「少年投資家」を生んでしまった親と子の関係があるのではないかと 思えた。もっと直接的にいえば、心の成長を育む社会教育が現代の日本には存在しないということにもなる。

かつて株式投資する時には、低位の株を買う時でも、最低10万円以上の投資資金が必要だった。それが今は民間の投 資家を市場に参入させる目的で、単位株が大幅に引き下げられ、状況がすっかり変わってしまった。それが良いことという暗黙の了解があるようだ。極端なの が、ライブドアの株式分割で生まれたお小遣いで購入できる昨今の株式事情だ。今や株は、少年のお小遣いで購入できるのである。 つい最近では、マザーズの 取引の9割が、ライブドアだったというが、その中には、大損をした「少年投資家」の売り注文もあったのだろうか・・・。

自分のお金で株を買って何が悪い。自己責任原則でやっているのだから、他人にとやかく言われる筋合いはない。少年 と親に、口を揃えていわれそうだ。

だが、私はあえて言いたい。
「まず子供の心の成長を考えるならば、少なくても経済常識、社会常識というものを、脳裏に刻んだ上で行うべきだ」 と。

酒もたばこも20歳までダメで、株は良い、というのはどうあってもおかしい。アメリカでやっているって?それはア メリカがおかしいのだ。アメリカの良さは知っている。しかしアメリカの悪しき世相まで、日本がサルマネをする必要はない。大事なことは、心の成長には段階 がいるという一点だ。このことは何度でも言いたい。株式市場は大いなるリスクを負う戦場のような場所だ。それが株式市場のリアルな姿だ。一度くらい儲けた ところで、情報精査の意味も分からぬ者が勝ち続けることのできる世界では断じてない。そ れは1929年のブラックマンデー以来の株式投資の常識である。そんな危険な現場である ことを肝に銘じないで安易なインターネットゲームのように市場を喧伝する一部マスコミの報道姿勢も問題がある。

最後に、株式市場において、更に今後の大問題になりそうなことを指摘しておく。それはインターネット取引が進ん で、安易な形で信用取引が利用されていることだ。現在日本の株式市場がミニバブル状態にあるが、このことは必ず大問題に発展すると予言しておく。その時、 損をした人間が、自分の無知と無防備を棚に上げて弱者を気取り、社会に泣き言を言わないことを祈りたいものだ。未成長の親が未熟で無防備な感覚を持つ妙な 日本人を育む現実を憂うる。


2 子供投資家さん・気をつけて

「子供投資家」という言葉をグーグルで検索すると、真っ先にこのところお騒がせのM証券のサイトにとぶ。そこでM 社長がこんなことを書いている。

「2005年03月30日 キッズ・マーケットキャンプなるものが、コレド日本橋で開かれました。これは、金融・ 資本市場メカニズムに対する理解を広く浸透させることが必要であるとの問題意識から、小学校5年生から中学校1年生までの30人程度を対象に金融や資本市 場の仕組みについて2日間かけて教え、体験して貰おうという企画で、そのような問題意識を持つ小・中学校の教員もオブザーバーとして参加しました。(中 略)彼らに迷惑をかけないように、より良い資本市場を準備して渡してあげたい、少しでも彼らの役に立つような、金融・市場に関する正しい知識と知恵を整理 していきたいと、そう思いました。ランチを終えて外に出ると、爽やかな風が吹き、素晴らしい青空が広がっていました。」

「キッズ・マーケットキャンプ」なんていかにも、楽しげなネーミングだ。一見健全な呼びかけのようにも感じられ る。

このM社長はマスコミにもしばしば取り上げられ、一見優しい顔立ちの中年紳士だ。ところが、ライブドアショックが 起きると、この社長、紳士から一転、突如として、ライブドア株を信用取引の証拠金から外してしまったのである。後で様々な弁解をしているようだが、市場の 健全性とか自社の顧客の利益とかよりも、自社の損害を最小限に抑えるためにのみ奔走したということになる。

途端にヒツジがオオカミになったようなものだ。証拠金として認められなければ、利用者は、別の株を証拠金としてM 証券に差し入れなければならない。このM 証券の身勝手な行動は直ちに市場に情報として流れ、売り煽りの情報として、あのライブドアショックと呼ばれる暴落の片棒を担ぐ結果となったのである。この 行為は、証取法にも金融庁の事務ガイドラインにも記載されていることではないから、脱法行為とは言えないが、少なくても、自社の顧客と市場に対しての背信 行為であることに変わりはない。

要するに、これが証券市場の真実の姿の一端だということを言いたいのだ。もっと言えば、証券市場とは、人間の欲望 の全肯定の上に立って売り買いが行われている戦場なのである。そこではヒツジがオオカミに変貌することなどは日常茶飯事のことだ。本来であれば、このよう な身勝手な行為をさせない高度なルールがあれば良い訳だが、そこまで日本市場はこなれていない。ましてどんなルールにも抜け穴がある。日本版SEC(証 券取引等監視委員会)はアメリカほどの権限も付与されていなければ、決定的に陣容不足だ。こうしたなかで起こった のがライブドアホリエモンの増長であった。ライブドアのようにルールすれすれの場合、安易にこれを取り締まることができないということで、犯罪の立証と検 挙の間のタイムラグが生じることになる。このように、情報の少ない個人投資家は、どうしても損をする確立が高くなる。まして無防備な「子供投資家」などを 保護するような倫理観など市場に要求する方が無理なのだ。

結論である。一見、耳障りの良い、人当たりの良い人物には注意することだ。いつそのヒツジ面がオオカミに変貌し、あなたを襲って喰おうとするかもしれな い。あなたの大切な子ども達が、「キッズ・マーケットキャンプがあるからおいで!?」などと誘われても、けっして乗らないことだ。

リスク管理を忘れた安易な昨今の株式投資ブームに対し、株式市場が日本経済の心臓弁であるとの明確な認識に立って、あえて警鐘をならしたいのである。まさに、「赤ずきんちゃん」ならぬ「子供投資家さん、気をつけて」だ。


3 子供の口座開設は何故違法ではな いのか?!   
  
「子供投資家」という言葉が、マスメディアで踊っていることに、日本という国の行く末に大いなる不安を感じる。日本の将来を支えるべき子ども達が、このよ うな投資行動にのめり込んだ場合、心の健全な発育を阻害されることは明らかである。M証券などで実際に行っているという子供の口座開設は、直ちにこれを法 的に違法とすべきである。

子供の脳の発展段階は、五感を通して行うべきである。もしも利益というものが、株というものを購入して、得られる性格のものであるとの認識が、はじめに脳 に認識されたならば、誰も苦労して、ものを製造するなどと考えるだろう。仮想の投資で儲かるほど、株式投資は簡単なものではないが、様々な成功や失敗は、 やはり実感を伴ったものであるべきだ。

それに何よりも、株式投資というものには、バクチと同じく習慣性がある。子供たちの頭が、日々株式で占められ、勉強中でも、自分の購入した株式の値段が気 になって仕方ないような状況が、今現実に起こっているのである。このようなことは子供の想像力を著しく奪うものであり、絶対にあってはならないことだ。

今、物議を醸している「Mファンド」のM氏というプロ投資家がいる。この人物は、旧通産省官僚だそうだ。小学校の頃から、投資をしているというから、現在 の「子供投資家」のハシリのような人物だ。彼の人格批判をするつもりはないが、人間として、何か欠如しているように感じるのは私だけだろうか。ホリエモン のニッポン放送株の時間外取引においても、黒幕はこの人物であった。また楽天のTBS買収騒動でも、彼が絡んでいたようだ。もちろんそれが直ちに違法性が あるかないかの識別は別にしても、人間社会のルールをはみ出した行動に見えないこともない。この人物についても、いずれ検察当局の何らかのチャックが入る ことは、そう遠いことではないであろう。

子供には、酒やたばこやパチンコさせないのは何故か。それは、習慣性があり、心の発達を著しく阻害する要因になるからこそ認められないのである。株式投資 はもっと習慣性がある。金融制度全般を平たく教えるのは賛成である。しかしながら、複雑な証券制度の危険性を認識しないまま、利潤を紡ぎ出す部分として の、株式投資をOKとするのは、ライオンや熊の野生の動物の危険性の認識のない子供をサファリ動物園に連れて行くようなものだ。バスの外に降りたら、それ こそ喰い殺される危険もある。それが株式市場なのである。佐藤弘弥



2006.2.2 ー2.6 佐藤弘弥

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