大改革は不可避
ヤミ社会化した相撲界に未来はあるか?!


 

 はじめに

1年前(07年8月9日記事)私は、朝青龍問題について、『「朝青龍問題」実は「日本相撲協会問題」という真相』という記事を書いた。

この記事の趣旨は、問題の真相は、朝青龍ではなく、硬直化した日本相撲協会の組織体質にあることを分析したものだった。

それから1年、相撲界には、この記事を上回るような問題が次から次と発生し、言葉は悪いが、ヤミ社会と見紛うような有様にすら映る。

昨日、今度は、相撲界に大麻汚染疑惑が浮かび、大相撲界は、秋場所の開催すら危ぶまれる状況に立ち至っている。もはや止まることを知らない大相撲スキャンダルだ。相撲界は、このまま行くとどうなってしまうのか。忌憚のない意見を述べてみたい。


 1 相撲界のヤミ世界化現象

正直、相撲協会には、恨みも敵がい心もない。目を瞑ると、子供の頃から、凛々しくかっこよかった名力士たちの姿が次々と浮かんでくる。少し前まで、大きく て強い力士たちの存在は、私にとって、日本人に対する固定概念を打ち破るイメージとして、外国人に対し誇るべき自慢の存在だった。

ところが、現在の相撲界幹部を見渡すと、自らではとても、問題解決の糸口さえ見つけられないという人物しかいないようにしか思えない。

事件を羅列しただけで、これは相撲界で起こったことなのか、「ヤミ世界」での出来事なのか、見分けがつかなくなる。

第一、朝青龍の品格問題。
第二、時津風部屋力士死亡事件。(某親方が主導してリンチを繰り返し若手力士が死亡。問題は殺人事件を隠蔽しようとした疑いまで出た。)
第三、間垣部屋暴行事件(元横綱2代目若乃花の親方が弟子を自らで暴行)第四にロシア人力士若ノ鵬(20)大麻逮捕事件。
第四、理事長自身の部屋「北の湖部屋」のロシア人力士露鵬(28)と「大嶽部屋」白露山(26)の大麻吸引疑惑(二人は兄弟である)

この問題に際して、協会の態度は、常に常に後手後手に回ってしまった。相撲協会の監督官庁の文科省は、幾度も北の湖理事長に対し、「問題を明確にして、相 撲界に対する信頼回復に努めるように」との趣旨の指導をその度に行ってきた。また最近では、一歩踏み込んで、「一般社会からの理事の登用」などと、相撲協 会を開かれた組織にするような具体的な提案まで飛び出している。

しかしながら、北の湖理事長の態度は、終始一貫煮え切らない態度にしか見えない。


 2 相撲界の国際化と法令遵守の問題

相撲界の問題はさまざまあるが、大きく見て次の二点に集約されるだろう。

第一は、国際化の問題。(相撲界全体が、モンゴル人力士をはじめとして国際化しているが、相撲界事態が旧態依然とした組織であること。)

第二は、法令遵守の問題である。(社会全体が、法令遵守(コンプライアンス)という問題に敏感になっている時に、相撲界が依然として内向きでこの問題に鈍感過ぎる)

第一の国際化の問題を考えてみる。朝青龍の問題が露呈したことは、朝青龍が、日本の相撲界で成功し、その報酬をもって、一族がモンゴルという国家の中で、 経済的にも財閥化し、銀行を持つほどの勢力になっていること。そのために、朝青龍は、「朝青龍財閥」(アサグループ)とも言うべき、組織の中心的存在であ るが故に、協会には言えない雑事を抱えてしまっていること。謹慎事件の発端だったサッカー事件も、このような中で発生した可能性が高い。また今回のモンゴ ル場所遠征では、朝青龍財閥が持つ会場でモンゴル場所が開催されるなど、自身の財閥は、興行主そのものだった。

朝青龍が、モンゴル場所の間、終始上機嫌で、いつになく明るかったのは、彼自身が興行主そのもののような存在だったことによるものだ。さらに、モンゴルか らの飛行機が成田に着いた後、朝青龍自身は、入国をせず、来た便にそのまま飛び乗って、モンゴルに帰ったというが、朝青龍には、モンゴルでの興行主とし て、帰国しなければならない事情があったとみるべきだ。

さて、このことを考えれば、大相撲の象徴的存在である「横綱」が、別の企業のトップに納まっているようなもので、これまでの相撲界ではあり得ないことだ。 これは強ければ許されるという問題ではなく、雇用契約の問題である。早急に「相撲規則」(「土俵規定」「力士規定」「勝負規定」「審判規定」などがある) を速やかに国際化を加味して全面改定すべきだ。

また、現在、モンゴルを中心に、力士の多国籍化が進んでいる。海外から来た若い力士には、その国の文化とは異質である相撲文化をよく理解するような教育シ ステムを作り上げることが必要だ。現在協会には、相撲教習所というものがあり、力士として合格した若者が、半年のカリキュラムで、相撲や相撲以外の一般教 養を習うようだ。おそらくカリキュラムを、もっと時代にあったように、変更して、国際化に見合ったものにすべきだ。カリキュラムの期間も、半年では足りな いのではないだだろうか。

第二に、法令遵守の問題は、今回の大麻吸引疑惑から出て来た問題ではない。時津風部屋で、親方がリンチを支持した後、この犯罪行為を、見て見ぬようにし て、隠蔽をするような体質が、相撲界に空気として存在していることが問題なのだ。いまだ、稽古での「かわいがり」が必要と思っている親方が大半であること は、つい最近、間垣親方が、弟子を殴ってケガをさせた事件が象徴するように空気として残っているとしか思えない。

大麻事件では、北の湖理事長が、弟子であるロシア人力士露鵬の「やっていない」という言葉をそのまま受け取って「本人がやっていない」というのだからと、 科学的な違法薬物使用チェックを否定するようなコメントを発表した。この理事長の言い分は、違法薬物の意味すら解っていないような態度であって、法令以前 の社会常識すら分かっていない水準に思え、私自身あ然を通り越し、うすら寒くなるのを覚えた。

 3 結論 大改革以外に道はない

結論である。この1年間を見るだけでも、現在の相撲協会の人事体制では、内発的・自発的な改革などは、非常に厳しいように感じる。

相撲協会は、これまで力士が理事長を務めてきた。これまでの理事長は、それぞれの代において顕著な実績を残して勇退した理事長がほとんどだ。例えば横綱栃 錦の春日野理事長は現在の両国国技館を造営し、現役時代のライバル若乃花の二子山親方にバトンタッチした。二子山理事長は、相撲のルーツを探して、シルク ロードやモンゴルを尋ねるなどして相撲博物館の立ち上げや、土俵の美を追究し立ち合いの充実に尽力した。

その後の理事長も、問題が起こったこともあるが、今回のように社会的に批判を浴びるほどのケースはなかった。それは謙譲を美徳として、相撲界を次世代に繋 いで行こうとする強い理念があったことだったと思われる。しかし特に、この10年間で日本の力士の国際化が急速に進んだことで、さまざまな矛盾が露呈する ようになった。

相撲界は、とかく保守的と言われる日本社会の中でも、親方制度など「アンシャン・レジューム」(旧秩序あるいは旧制度と訳される仏語)をそのまま維持する 閉じられた社会である。しかも力士の国際化は、相撲協会のイノベーションによって起こったものでは決してない。それは日本の若者が、古いしきたり(アン シャン・レジューム)を色濃く残す相撲界に就職するのを避ける傾向が強いという力士の人材不足から起きたものだ。

協会は、本来であれば、急激な力士の国際化に伴って、それに対応した組織改革などに取り組む必要があった。しかし協会は、残念ながら、それを怠って来たのである。

考えてみると、昨年から起こっているさまざまな事件は、この相撲協会の「国際化に対する対応の遅れ」と「アンシャン・レジューム」の矛盾から起こったものばかりである。

要は、相撲協会も一般社会同様、急速な国際化の中で、変革を余儀なくされていると見るべきだ。もはや古い従前の考え方では、朝青龍のようなモンゴルに一代財閥を持つに至った人間を権威で押さえ込むことは不可能のようにも思える。

もしも、大相撲関係者が本気で相撲の将来を考えているならば、組織が瓦解してしまうほどのインパクトのある事件が目の前で起こっていることを自覚すべきだ。そしてそれぞれの分野のプロフェッショナルを組織に入れて大改革を断行することだ。

理事長という存在をどうするかということも大きな問題だが、それよりも、国際化や日本の法制度に準拠した”相撲憲法”とも言うべき「大相撲倫理規定」も一日も早くそれにふさわしい専門家を集めて起草すべきだ。大改革の断行以外、大相撲に未来はない。


2008.9.9 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ