映画「ソーシャル・ネットワーク」を観る ザッカ−バーグの創造的天才とは?!

「フェースブック」の創始者マーク・ザッカ−バーグ(26歳)を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」(2010年アメリカ デビット・フィン チャー監督)を観た。主人公ザッカ−バーグは、21世紀のビル・ゲーツと呼ばれ、2010年のタイム誌の「今年の顔」にも選ばれた天才児だ。

本映画は、今年のアカデミー賞にも、ノミネートされている前評判の高い作品である。見終わった後の正直な感想は、「尻すぼみで味わいのない作品」という印象だ。問題のひとつは、作品の根底に倫理観(正義感)が一向に見えないことかもしれない。

映画の多くは、裁判に「サイトのアイデアを盗用された」と訴えられた主人公ザッカ−バーグ(被告)と訴えた側の原告ウィンクル兄弟の法廷での攻防と回想場面で構成されている。

事実、ハーバード大学内で、大学内で「出会い系サイト」のようなポータルサイトを起ち上げようとしたウィンクル兄弟が、プログラミングに長けたザッカ−バーグに、このアイデアを持ち上げて、サイトの起ち上げに協力依頼し合意する。

しかしこのアイデアにクールさ(かっこさ)を感じないザッカ−バーグは、大学の友人のサリベンと共「ザ・フェースブック」というサイトを起ち上げる。サリ ベンは、1000ドルを自ら出資し、以後出資者の発掘に当たる。以後、このサイトが瞬く間に、ハーバー大学を越えて、全米の名門大学に拡がっていく。びっ くりしたのは、自分たちのアイデアを盗用されたと思ったウィンクル兄弟だ。兄弟の父親は、著名な弁護士である。兄弟はハーバード大学の学長でかつてクリン トン時代の財務長官ローレンス・サマーズにも、父親のコネクションで、大学の学則にも触れる行為だとして「ザッカ−バーグ」の処分を求める。これにサマー ズは、問題外、としてもっとスピーディで創造的な行為をしなさいと、門前払いを9する。これによって、兄弟は父親を頼ってザッカ−バーグを訴えるのであ る。

フェースブック利用者は、ひとりのIT界の寵児との出会いで飛躍的に拡大する。それは無料音楽配信サイト「ナップスター」を起こしたショーン・パーカーと の運命的な邂逅(かいこう)だった。彼はサイトの名を「ザ・フェースブック」から「ザ」を取ること、ニューヨーク(東)からシリコンバレー(西)に企業を 引っ越すことを提案する。このショーンに傾倒するザッカ−バーグに対して、共同経営者のサベリンは、反対する。路線対立である。

西海岸に移り、ショーンの人脈による投資家の援助を受け、フェースブックは、ついに100万人が登録するサイトに成長する。以前として、ニューヨークで投資家を募るサリベンは、完全に孤立し、ついには路線対立もあって、策謀により会社を追われることになる。

巨額の出資を得たフェースブックの成功は、ひとえに名門ハーバード大学の名を冠した出会い系サイトに過ぎないサイトのアイデアについて、この発想を一変さ せて時代に適応した「クール」を追求したザッカ−バーグの創造性にあった。もっと言えば、ザッカ−バーグという若者は、人間と人間の結びつきが希薄になっ ている現代社会において、自分の意に適ったコミュニケーションができる知人や友人を見つけたりするインターネットツール「ソーシャル・ネットワーク・サー ビス(SNS)」というビジネスを創造したことになる。しかし映画においては、この主人公ザッカ−バーグの創造的天才性についての掘り下げは一切ない。ま た、アメリカンドリームを体現したザッカ−バーグを生みだしたはずのアメリカ流資本主義の本質的な部分への肉薄もない。

資本主義の権化のような弱肉強食のアメリカ社会の一面を描いているような印象がある。かつて「ウォール街」(1987年アメリカ、オリバー・ストーン監 督)という映画があった。次々と企業を買収して、のし上がる主人公の成功と挫折の物語であったが、この映画には、監督オリバー・ストーンのアメリカ社会に 対する批判的メッセージが込められていた。それは映画哲学とも言うべき社会倫理観(正義感)であった。

しかしこの「ソーシャル・ネットワーク」という映画には、そこが見えない。ザッカ−バーグのプログラマーとしての天才性は多少見えるが、彼のどこが創造的天才性なのか、アメリカ資本主義が、彼をヒーローとして最年少の億万長者になったのは何故か・・・。

映画のラストシーンは、若い女性顧問弁護士が、主人公にサジェッションを与えるシーンであった。彼女は、訴訟になっている兄弟や元共同経営者に対し和解金を払って も、穏便に収めた方が、今後の「フェースブック」のためになる。今のあなたにとって、その金額は大した額ではない、と告げて去るシーンだ。このシーンがストップモーションになって映画が終わる。

最後に「250億ドル(約2 兆円強)の資産を持ち、全世界に5億人のサイト登録者を持つ」といったテロップが現れる。同時にビートルズの「ベイビー・ユァー・リッチマン」(アルバム「マジカル・ミ ステリー・ツアー」収録  1967年)が何となくユーモラスが聞こえてくる。唐突なラストだ。今後のフェースブックの動向が気になると同時に、映画としての物足りなさだけが残った。


2011..2.2 佐藤弘弥

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