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雨を楽しむ

「楽しむ」という言葉がある。この言葉を一旦使えば、たとえ苦しい時でも、人生はバラ色になる。

6月27日、那須の芦野の里は、朝から大雨が降っていた。この雨の中を大きな笈を背負った菅原さんは大丈夫だろうか?白河の関まで、果たしてたどり着けるだろうか?私は激しく降る雨を恨めしく眺めながら、不安にかられていた。しかしそんなことはお構いなしで、菅原さんは笈(おい)と自分を覆うための、ポンチョを出して拡げている。

いくら待っても外は大粒の雨が激しく窓を叩いていて、外に出るのも、益々おっくうになってくるばかりだ。だがどうしても白河神社の宮司薄井さんとの約束もあり、三時までには、雨の山道をぬけて約15キロの道のりを踏破しなければならない。

大雨を楽しみつつ峠を越える菅原氏

しばらく困り果てていると、私の頭の中をあるイメージがよぎった。それは源義経公が、鎧姿で現れて、男泣きに肩をふるわせている姿だった。無念を残してこの世を去った義経公の8百年ぶりのうれし涙が、この大雨となって降っている…。するとふいに、次のような言葉が私の口をついいて出たのであった。

「雨を楽しみましょう。今日の雨は、義経さんのうれし涙ですよ」

「そうだよね。810年ぶりだもの。今日は特別の日さ。栗橋の静御前のお墓でも、静さんのうれし涙が降っていたじゃないの」菅原氏は、そういいながら、いつもの人なつっこい笑いを浮かべて大雨の中へ消えた。

「そうですね。雨を楽しみましょう」若い義経公にどこか面差しの似ている金沢君も続いた。

*   *   *

雨は、街道を徒歩で移動する三人にとっては大きな障害だった。しかしそれを「楽しむ」という言葉を挟むことによって、まるで違った感慨が心の底からわき上がってきた。するとさっきまで、あれほど忌み嫌っていた大雨に対して、感謝の念すら湧いてきたのである。人生雨も又良し。

判官の涙うれしや夏の雨 佐藤 


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最終更新日:99/07/28 18:30 Hsato