パット・メセニーの
新譜「DAY TRIP」を聴く

音楽もジャケットも最高!!


佐藤弘弥
 

パット・メセニーは、現代最高のギタリストのひとりだ。

私にとってジャズ・ギタリスト「パット・メセニー」という存在は、新譜が出たなら、視聴せずに必ず購入する数少ないアーチストだ。今回 の新譜「DAY TRIP」も、まずジャケットを見て「イイ感じのジャケットだな?!」と思いながら、すぐに購入した。

今回の新譜は、10曲すべてがパットのオリジナル作品。メンバーはベースに「クリスチャン・マクブライド」、ドラムスが「アントニオ・ サンチェス」というトリオでの録音。

・・・やっぱりいい。いつもパットの軽妙なギターが響いてくる。中で、私は、生ギターの静かな演奏から始まる6曲目の「IS THIS   AMERICA?」と8曲目の「DREAMING TREES]が特に気に入った。「IS THIS AMERICA?」は、副題が付いていて 「Katrina 2005」とある。おそらく、この曲は、05年8月アメリカ南部地方を襲い、死亡・行方不明者2500人を越える大災害を及ぼした「ハリケーン・カテリー ナ」の惨状を見て、「これがアメリカなのか?」と思わず漏れた言葉を曲名としたものかもしれない。この曲には、パット自身の犠牲者に対する深い鎮魂の思い が込められている感じがする。もちろん全体がパットの音楽そのもので、非の打ち所がないほどの出来である。単なるヒーリング音楽ではない。ジャズという即 興音楽特有の緊張感に満ち溢れた演奏があり、超絶技巧の早弾きがあり、また瞑想に浸りたくなるほど静かで内省的な演奏もある。

そして何気なく、演奏を聴きながら、CDのジャケットを開いてみて、あっと驚いたことがあった。

何と五枚の絵が、絵巻の絵のように横に広がったのだ。そこには音楽とコラボレーションをするファンタジー世界があった。

ジャケットの大都会の通りの喧噪を描いた絵に続いて、二枚目の絵がある。そこはニューオリンズかどこかだろうか。音楽がいつも流れてい るようなアメリカの田舎町に見える。通りをベースやドラムを運ぶ女の子を前を自転車に乗った中年の男たちが走っていく。

次に三枚目の絵。横長の絵で田舎のガソリンスタンドに無造作にギターを積んだ銀色のオープンカーが給油をしている。後ろ向きに立ってい るのは、パッ ト自身かもしれない。そこに何故かニワトリがいる。車をはさんで反対には、白いウサギが遊んでいる。そろそろ夕暮れか、空には☆が煌めいている。スタンド の上には、ドクロにテンガロンハットを被った珍妙な看板が掛かり、そろそろねぐらに帰るカラスが飛び立とうとしている。待てよ、屋上では、赤いキャップに Tシャツ、バミューダの姿で椅子に腰掛け、ビールをあおっている男がいる。男は無造作にハイウェイを走る大きなトラックを見ている。

四枚目の絵がまた面白い。アメリカ大陸を横断する新型の電車が背景に描かれている。空には地図が張り付けられ、その上に絵の具が塗られ ている。その 空をアメリカそのものを象徴する白頭鷲が電車と並ぶように飛んでいく。そこに何故か飛行機の運航を指示する空港スタッフが赤いトーチのようなものを両手に 掲げて指示を出している。その後ろにこっちを向いてトラがニヤリと笑っているように立ち止まっている。その様子を見て黄色のタンクトップにキャップを後ろ に被った自転車の男が横目で見ながら過ぎていく。

最後の五枚目の絵は、牧場の雰囲気だろうか。丘の上には、真っ赤な色を塗った大きな家が建ち、緑の牧草地では黒い牛たちが長閑に遊んで いる。その上には4枚目の空と同じように地図の空を旅客機が飛んで行く。

絵の作者は、「ジョシュ・ジョージ」とある。これまでも、パットのジャケットデザインは、ECM時代のものも含め素晴らしいものばかり だった。だが、私はこの「DAY TRIP」のデザインは、これまでの作品の中でも最高の出来だと感じた。

このパット・メセニーの新譜CDを購入し、最近では私自身も、インターネットでの音楽のみの購入をすることが多くなったが、時には、 CDそのものを 購入して、CDのジャケットデザインなやカバーの挿絵などの出来映えをチェックしてみるのも一興だなとつくづく感じた。触れなければ分からぬ価値もあるの である。

Day Trip Day Trip
価格:¥ 2,123(税込)
発売日:2008-01-29


2008.2.1 佐藤弘弥

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