大阪府知事選で見えたもの

大阪にもタレント知事 地方政治の流 れは変わるのか?!


佐藤弘弥
 1 制度疲労としての日本の地方自治

さる1月27日(日)、大阪府の知事に、タレントで弁護士の橋下徹氏(38歳)が当選した。日本で一番若い知事の誕生だという。考えてみると、大阪府は、 故横山ノック氏など、タレント系知事が好きなようで、今回も未知数のタレント議員を担いだカッコウだ。大阪府に限らず、地方財政は火の車である。でも、大 阪は東京に次ぐ大都市で、他府県と比べれば、税収もかなりのものがあるはずなのに、なぜか大赤字で首が回らない状況にある。

その大赤字の原因の第一に上げられるのが、大阪府がやってきた放漫な行政である。マスコミでも何度か、取り上げられてきたが、後先を考えずに、造る道路、 公舎などの箱物、さらには昨年の世界陸上に見られるような、収支を度外視したイベントの開催などもある。もちろん、地方財政の破綻の最大の原因は、明治以 降連綿と続いてきた日本政府による中央集権的な地方支配の構図で、常に地方は、中央省庁の言いなりになるべき一機関として、名ばかりの地方分権を強いられ てきたことにある。別の言い方をすれば、この構造は、地方自治制度100年の制度疲労ともいうべきものだ。


 2 中央省庁の官僚かタレント候補か!?

これまで地方の知事というものは、おおむね自治省から総務省に昇格した官僚か、あるいは他の中央省庁の高級官僚が、自民党府連、県連などから一本釣りされ て知事の座に就くというのが、一般的だったが、ここのところ、少し前には小説家だった田中康夫氏が長野県知事になり、脱ダム宣言を行って、中央主導の地方 政治に風穴を開け、昨年には、宮崎県でタレントそのまんま東こと東国原英夫知事が誕生するなど、タレント系の人物が、テレビによる知名度という絶対的な切 り札を利用して、当選する流れが定着したようにも感じる。


 3 東国原宮崎県知事と「暫定税率維持論」

これが新しい地方政治の流れだというのは、早計な解釈だ。はっきり言えば、誰も引き受け手がないほど、地方財政が逼迫しているという現実があると考えるべ きだ。最近、何かと話題を提供している東国原知事の発言を聞いていると、少し危ういものを感じる。それは暫定税のガソリン税に関する発言によく表れていた ように思う。東国原知事は、地方(宮崎)にはまだ道路は必要だと発言した。しかしもっと厳しく考えれば、道路が必要なのではなく、自己の自由裁量で、地方 税を決める本来の自治権の確立ではないのか。ひとまず暫定税を廃止し、宮崎県に真に必要な道路があるとすれば、国交省が管理(?!)する道路特定財源(ガ ソリン税)に頼って、道路を際限なく造り続ける、中央集権的な政治のあり方に「ノー」と発言し、国に対し地方の裁量権を認めされることではないのか。


 4 マニフェストと国民の政治的無関心

ところで、この1月20日、東国原知事は、政治の道の師匠にあたる前三重県知事の北川正恭早大大学院教授らと、国民運動組織「せんたく」(正式名称:地 域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合)を立ち上げた。

次期衆議院を意識した組織ということだが、会見の席上、北川氏はこの会の設立趣旨をこのようにぶち上げた。

「キーワードは(1)国民の意識改革、自己変革の推進(2)霞が関・官僚主導からの脱却、責任ある政治主導の実現、脱官僚、脱中央(3)地域・生活者起点 の政策、国の仕組みの作り直し。戦後の『お任せ民主主義』『霞が関・官僚主導』を打ち破り、日本人の生き方、働き方を根本から問い直す地域・生活者起点の 『平成の民権運動』だ」(産経ニュース 1月20日ウエッブ版)

そうすると、この会は、日本国民自身が、政権の「選択」をするためための道筋を作る組織ということだ。その上で、各政党が具体的な政権公約(マニフェス ト)を発表し、国民がこれを「選択」するということが最終目標になる。


 5 大阪の有権者は橋下新知事を最後まで応援できるか?!

しかし残念ながら、昨日の大阪府知事選挙を見てみると、今回の府知事選挙の結果は、「人物本位」や「マニフェスト本位」で選ばれたものではなく、他の候補 者よりも、知名度で勝る橋下氏が当選したというのが現実の姿ではないだろうか。投票率も、前回(39.75%)より上がったとはいえ、48.95%という 低さだ。大阪府民の民度の低さも指摘しないわけにはいかない。厳しい言葉で言わせてもらえば、大阪府民の政治への無関心もまた現在の抜き差しならない大阪 府の財政状況を生んだ原因のひとつだ。

問題は、大阪府民の政治的無関心が解消し、橋下新知事が掲げた政治公約(マニフェスト)を実行する環境が整うかどうかだ。普通に言ってしまえば、自民党の 圧力や官僚たちの抵抗にあって、変節を余儀なくされてしまう可能性が極めて高い。その時に、大阪府の有権者はどうするべきか。もちろん、自分たちが選んだ 新知事が正しい方向に府政の舵取りをしようとしているとの政策評価をするのであれば、橋下新知事の政策と手法を全力で応援する位の気概を持つべきである。

 
 6 民主主義の学校としての政治参加

最近ニュースで流れるアメリカの大統領選挙への予備選挙を見ていると、政治参加は、民主主義の学校なんだ、とつくづく感じる。政治的無関心の問題は、大阪 府民に限定される問題ではなく、日本社会全体の問題と見るべきだ。

ともかく、大阪府民は、橋下徹というタレント候補を選んだのである。この人物をもうひとりのタレント候補だった現宮崎県知事東国原知事も声を張り上げて応 援し、見事に当選させた構図に見える。この東国原知事も就任1周年を迎え、これからが県知事として正念場になる。しかしこの東国原知事も、ガソリンの暫定 税率の問題では、これを無くしてもらっては困る。宮崎には道路を造る必要がある、と「暫定税率維持論」に明確に与している。この時、私は付け焼刃な政治的 知識のメッキが剥がれるのを垣間見た気がした。

厳しい言い方だが、政治家としての限界を露呈した可能性があるのではないかとさえ思う。やはり人気があるというだけでは、生き馬の目を抜くといわれる政治 の世界では、通用しないのだろうか・・・。橋下大阪新知事については、今後の政治手法と実行される政策を通じて評価判断させていただくこととしたい。


2008.2.1 佐藤弘弥

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