寓話主張しないお姫様

 
 
 

この寓話を津崎百合子さん捧げる。

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ある城に、お姫様が住んでいた。このお姫様には、生まれた頃から、乳母が付いており、泣けば、「ミルクが与えられ」、転べば、「はいはい姫さま」と言って起こしてくれる。友達が欲しいと言えば、「国中から気に入った友達を城に連れてきてくれる」そんな育ち方をしたものだから、自分で相手に言葉で意志を伝えることをしない女性として、成長してしまった。

彼女もいつしか年頃になり、隣の国の王子様と婚約することとなった。しかしお姫様はこの王子が大嫌いだった。大嫌いだと、父の王に言おうとするのだが、どうしても言葉に出して言えない。父が選んだ夫を否定すると、何か悪いことでもしているような気がして、言葉が口をついて出ないのである。

乳母にそれとなく、話をしてみるのだが、まったく取り付いてくれない。何故ならそれは、これまでお姫様が、自分で何かを主張した経験がなかったので、あのお姫様に限っては、全部こちらで段取りをしてやらなければ出来ない女性だと、乳母の方でも決めつけてしまっていたのである。

「あのお方は、私にはもったいない」と遠回しに言ってみるのだが、

「そんなことはありません。家柄からいっても、お姫様の方が断然上ですし、第一お姫様の肌の白さを、あの王子様が見そめてしまったと国中の評判ですわ」と言ってくる。

「でもあの王子には、以前すてきな恋人がいて忘れられないとか、言いますけど」

「そんなことはありません。お父上もそこの所は、丹念に調べ上げてのことですから、ご心配ご無用ですよ」そしてその日も、自己主張をしないまま、結婚の日は、どんどんと近づいてくる。

たった一言「私結婚したくない。私には好きな人がいます」と言えば、それでこの結婚はご破算になるのだが、それがどうしても言えないのである。

そしてとうとう結婚の前夜となった。お姫様は、この城に生まれた自分を後悔し、自分の境遇をつくづく情けなく思った。城の外では、貧しい格好ながら、同じ年代の娘たちが、好きな男性と手をつないで歩いている。

「お父様、」そう言って結婚出来ない旨を話そうとしたが、とうとう言えず。

父の王様は、

「姫よ、何も言わんでよろしい。小さい頃から、おまえの優しい性格はよく知っている。何も心配せず、お嫁にいきなさい」

お姫様の心は葛藤した。「そうではないのです。私には○○という好きな男性がいるのです」とうとうお姫様は、気が狂いそうになり、その場に卒倒した。

あと1日、このお姫様は、自己主張して、この結婚を取りやめにする勇気はあるだろうか?佐藤
 


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1999.6.30