オバマ大統領が、1月21日、リーマンショックの元凶となった米金融業界のあり方に規制を加える方針を 明らかにした。このことの意味について考えてみる。

オバマ大統領は、昨年1月、大統領に就任すると、リーマンショックによる世界的不況の源泉になったアメリカの金融界を緊急で支えるために、巨額の資金を、 アメリカの投資銀行や保険会社に直接注入したことは周知の事実だ。結果的には、この大規模かつ緊急支援が功を奏し、世界恐慌のような最悪の事態を防ぐこと に成功したとの評価がある。この政策の立案には、クリントン時代のルービンやサマーズなど財務長官を歴任した大物経済人、経済学者学者(IMFに影響力を 持つ金融業界よりの人物)が携わったと思われる。まさにこの政策は、適切な政策の執行であったと思われる。

ところが、モノには、両面がある。一方、このことによって、アメリカではエコーバブル(残響バブル)と言われるようなミニバブルが発生しているとされる。 これはノーベル経済学者のポール・クルーグマンなども再三注意喚起をしているところだ。確かに市場を見れば、有り余った資金が、金や石油、レアメタル、株 式など、さまざまな投資に回り、実体経済と乖離した形での、熱狂が再び再燃されるような気配だ。リーマンショックから、早1年半近く、世界経済は、再び金 融資本の暴走によって、脅かされようとしていることになる。

オバマは就任演説の時、明確にアメリカの金融業界による野放図なシステムの不備を指摘して「この危機で私たちが学んだのは、監視の目がなければ、市場経済 は制御不能に陥ってしまう」と語った。これはもちろん、グローバル経済の行き過ぎたあり方を改め、投資銀行などによるマネーゲームを規制することに方向転 換するとの決意と見られてきた。

ところが、オバマが大統領就任以降、具体的に金融制度の規制について具体的な改革の道筋が議論されることはなかった。これはサマーズやガイトナー財務長官 など、オバマ政権の金融政策を取り仕切る人物が、金融資本やウオール街に近いためのバイアスがあるためとの噂がしきりだ。

今回、オバマ政権が、この1月21日に、金融危機再発を防ぐため、金融機関に対して、高リスク取引を制限したり経営規模の肥大化を防いだりする大幅な金融 規制改革案を発表したことは、やや遅すぎた感はあるものの、評価に値する。

これに対し、市場の反応は、ハナから否定的だ。ダウは、連日200ドルを越える大幅安で引けた。日本の市場もこれに連れて、安くなっていて、気の早い市場 関係者やマスコミは「オバマ・ショック」などと呼んで、この法案に否定的だ。しかしこれはいつか通らねばならない道(不可避の改革)である。

この改革の骨子について、オバマは21日の演説で、この新法案を「ボルカー・ルール」と呼んだ。ボルカーとは、かつてFRBの議長を長年勤め金融界の巨人 と言われたポール・ボルカー氏(在職期間:1979 - 1987)のことだ。この人物は、70年代から80年代初頭深刻な財政赤字とインフレに喘いでいたアメリカを立て直し「20世紀最高のFRB議長」と評さ れる人物だ。

オバマ政権は、このボルカーという人物の権威と見識をテコにして、21世紀のあるべき金融制度改革の道筋をつけたいのだろう。大雑把に見れば、この法案に よって、オバマは、ふたつの規制を実行する構えだ。ひとつは商業銀行を対象にヘッジファンドへの出資などを禁ずる規制。もうひとつは、金融機関が抱える負 債額に一定の制限を加えることだ。

遅すぎたかもしれないが、今回の改革は、オバマ政権の命運を決めるというよりも、アメリカ金融業界の度々の暴走に翻弄されるようになった世界経済の命運を 握る大改革でということができる。是が非でも、この法案を実現の運びに持ち込んでもらいたいものだ。

2010.1.21 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ