届け 母早紀江さんの声

ブッシュさん 私たちを裏切らないで!!





佐藤弘弥


横田早紀江さん
(6月19日自宅にて 佐藤弘弥撮影)

日本時間、6月26日7時頃、アメリカ政府は、北朝鮮の核計画の申告書(ニューヨークタイムズ紙はこれを「The declaration」=宣言と報じた)が、六カ国協議のホスト国中国に提出されたことを受けて、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除するとの声明を 発表した。

この北朝鮮のテロ国家解除は、アメリカにとっては予定通りのシナリオだったはずだ。アメリカのスタンスの変化は、今年に入って急に変 わったものでは ない。昨年来、アメリカの国務省中枢部の動きを見ていると、北朝鮮の核を無力化することを最優先にするためのシナリオが動いていたことは明確だ。レーム ダックのブッシュ政権にとって、北朝鮮外交で成果を残しすことが必要だったのかもしれない。

ブッシュ大統領は、昨夜の25日夜、福田首相に、電話を入れ、「自分は拉致問題を決して忘れない。日本の懸念は十分理解しており、日本 と引き続き緊密に協力していきたい」(産経新聞)と「拉致問題への配慮」態度を示した。

また制裁解除の発表の後に、ホワイトハウスで行ったスピーチでも、北朝鮮が、申告書を提出したという行動に対する行動であって、これは 長い検証まで 道程の始まりであるということを強調した。また拉致問題について、娘を拉致された母親(横田早紀江さん)とこのホワイトハウスで逢ったことにも言及した。

このブッシュ大統領のスピーチに答えるように、NHKの夜9時のニュースに出演した横田早紀江さんは、ブッシュ大統領に今何を伝えたい ですか、との質問に、

とても残念ですね。人間 の命を一番大事に思ってくださる国で、ブッシュ大統領自身がはっきりと『こんなに30年もの間、虐げられていることが許せない。(北朝鮮は)国際社会に尊 敬される国になりたいのならば、子供たちを全部返しなさい』と記者の前ではっきりと言っていただきました。あの時のお言葉とお気持ちを絶対に忘れないでい ただきたいし、その時の言葉を実行していただきたいし、(私たち拉致家族を)裏切らないでくださいって、言いたいです」 ときっぱりと答えた。

ともかく、今日、北朝鮮の申告書の提出とアメリカ政府のテロ支援国家解除が発表されたことは、45日という申告書の検証の長い道のりの 第一歩である ことは間違いない。この間に、アメリカは、北朝鮮によって提出された50頁に及ぶ申告書(宣言書)の検証と、北朝鮮政府のニョンビョンにある核施設の無力 化などを含む行動プロセスの実行をチェックすることになる。ただ今回の申告書の内容について、核兵器の所在の問題やシリアなどへの核技術移転の関与などの 問題が掲載されていないなど問題点も指摘されている。

それに対して福田首相は、『従来も(日米は)緊密な連絡をとりあってきた。今後も同じようにやっていくということ。そのことがですね、 非核化を実現 させるために本当に必要な訳ですね。同時に我が国にとってその大きな課題である拉致問題も解決出来る道が開けるということですよ。それ以外ないじゃないで すか(TBSニュースアイより引用)』と飄々と答えていた。拉致家族会の人々悲痛な訴えは伝わっていないように見える。拉致問題の本質は、自国内で自国民 が拉致されるという国家テロが実行されたことだ。

アメリカで同じことが起これば、アメリカは必ず報復行動を取るだろう。場合によっては、軍事行動を起こすことだってするかもしれない。 パンアメリカン航空機爆破事件(1988)の時には、この事件の黒幕とされたリビアを内外から徹底的に封じ込めた。溜まりかねたリビアは自らの直接関与を 認め、国家としてのあり方まで改めさせたこともある。

さて今回の件に関して、 冷静に日本政 府の言動(外交姿勢)を分析すれば、従来の拉致問題に対するスタンスを後退させて、アメリカの政策に付き随ったというしかない独自色の乏しいものだ。この ことについてアメリカの外交 に精通している外交ジャーナリスト手島龍一氏は、TBS「ニュース23」に出演して今回の件を「日米同盟の空洞化」というユニークな表現で総括した。ここ は、やはり「拉致問題の解決なくして、制裁を解除や経済支援をするつもりはない」と、従来の自国のスタンスを貫くべきではなかったのか。



ブッシュ大統領 私たちを忘れないでください
 (横田早紀江さん 08年6月27日 佐藤弘弥撮影)




2008.6.30 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ