モアイ像の文明論


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イースター島の文明崩壊について-

 
昨日(06年11月23日)、何気なくテレビを見ていると、あのイースター島の「モアイ像」が映し出された。この番組はTBSの「地球新世紀」というもの で、今回は「巨石モアイ像に隠された文明崩壊の真実」というタイトルであった。

この番組によって、私の中でイースター島のイメージもモアイ像のイメージもすっかり変わってしまった。その意味でこの番組はまさに衝撃的であった。

これまで私は、イースター島やそこに立つモアイ像をイメージする時、古代ロマンとも言うような、ロマンチックな感慨を抱いていたものだ。ところが番組の映 像によれば、あれは実はわずか500年ばかり前に起こった文明崩壊の跡という信じられないような悲しい現実であった。

よくよく考えてみれば、おかしなことがある。イースター島には、南太平洋の島でありながら、熱帯地方特有のジャングルがない。草原が茫洋として海岸からな だらかな勾配を通して奥山まで拡がっている。これまで、私は深い考えもなく、イースター島とは、そんなところだろうと頭から思い込んでいた。

ところが番組によれば、その昔のイースター島には、ジャングルがあったというのである。イースター島のモアイ像は、1100年頃から造られるようになっ た。巨石に刻印された痕の年代測定で容易に時期は判明した。当のモアイ像は、島の奥山にある岩を切り出して建てられたものであるが、島の民はこの「神の 像」(?)を掘り出すことで、おそらくは一種の景気循環が生まれたのである。そこで人口が徐々に増え、今から500年前頃に、人口爆発的な状況となった。 その結果、食糧不足の解消のために密林が切り開かれ、畑が開墾される。言うならばモアイ像ラッシュというような経済状況が起こり、それが最後にクラッシュ したということである。

かつてはエジプトのピラミッド建設というものについて、私たちは、単純にエジプトのファラオが国民や奴隷達が強制労働を強いて建設されたものと思われてい た。しかし最近では、そうではなくエジプトの経済を活性化する上で、巨大ピラミッド建設によって、労働機会を生み出していたという考え方もなされるように なった。要するにピラミッドは公共事業のひとつだったというのである。そしてピラミッドの建設現場周辺では、建設にあたる労働者たちの都市ができあがる。 そうなれば、そこには様々な経済の流通が生まれ、ヒト・モノ・カネが集まるようになるのである。

それと同じで、イースター島でも、宗教絡みのモアイ像建設という事業が、人々の中に労働機会をつくり、それによって徐々に都市が建設されたということにな る。行きすぎた都市化は弊害をもたらすものだ。西暦1500年頃、イースター島では、人口が急激に膨らみ、食糧の必要から、森林が伐採され、畑が作られ、 徐々に島からジャングルが消え、豊かな土壌が海に流出するようになったという研究結果が、土壌調査によって判明したのである。結局、イースター島のあの物 言わぬモアイ像が暗黙の内に語っているのは、自然を必要以上に破壊してはならないという警告である。

現在、アマゾン川流域では、森林が焼き払われ、それが地球環境に大きな影響があると指摘されている。その広さは毎年日本の何十倍という広に当たるというこ とだ。アマゾンの密林地帯は、人類にとってなくてはかけがえのない酸素の最大の供給源である。今現在、アマゾン川流域で起こっていることは、現代のイース ター島問題とも言うべきことだ。私たちは、もう一度イースター島のジャングルなき原風景を思いながら、モアイ像の警告の叫びを聞かなければならないだろ う。

2006.11.24  佐藤弘弥

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