2007年大リーグオールスター戦

イチローMVPの快挙




イチローがサンフランシスコ・AT&Tパークで開催された大リーグオールス ター戦(現地2007年7月10日)でMVPをもぎ取った。

 ベースボールの国アメリカのオールスターは今年で78回目である。長いベースボールの歴史の中で、イチローが快挙を成し遂げたことになる。もちろん日本 人のMVPは初のことだ。

 アメリカンリーグの先発メンバーのトップバッター(センター)として登場したイチローは、5回まで、3打数3安打打点2の大活躍だった。

 とくに5回の3打席目はサンフランシスコの海を見渡せるライトフェンスにダイレクトに当たるライナー性の当たりで、逆転のツーランホームランだった。し かも本塁打は、イチローらしく(?)ランニングホームランだった。78回の大リーグオールスターでも初の記録だという。それを聞かれたイチローは、興奮を 隠さず「そうなの?ボクも(ランニングホームランが)はじめてですよ。楽しかった。」と満面の笑みで応えた。

 大リーグオールスターは、対戦が一日。前日にはホームランダービーというイベントのたった二日間の刹那の祭りである。

 イチローは、昨日のホームランダービーには出場しなかったが、打撃練習にゲージに入ると、プーホールズやゲレーロなどの名だたるホームランバッターが、 緊張のためか、肩に力が入りすぎて、ホームランが出ない中で、ボンズの代名詞とも言われるスプラッシュヒット(サンフランシスコジャイヤンツのホームグラ ウンド「AT&Tパーク」のライトスタンドを越えて海にまで届くホームランのこと)を次々と放って、大リーガーたちの度肝を抜いた。

 現在アメリカ最高のホームランバッターと言えば、イチローの友人でもあるヤンキースのスーパースター、A・ロッドことアレックス・ロドリゲスだろう。そ の彼は常に、もしもイチローがその気であれば、ホームランを毎年30本以上は打つだろうと語る。

 大男揃いの大リーガーたちに入ると、身長180cm77キロのイチローはいかにも小柄だ。しかしいったんイチローがゲージに入って打撃練習を開始する と、皆イチローの飛距離に驚き、目が点になる。パワーではなく、バットとボールの当たる角度を完璧にコントロールして打つ技術をイチローは習得しているの だ。

 面白いエピソードがある。イチローの秘密を知りたいのか、イチロー一緒にトレーニングを行ったロドリゲスだったが、イチローのトレーニングのハードな ルーチンにロドリゲスがついていけなくて、「参った」と言ったとか言わないとか。

 今年から、そのロドリゲスも、昨年のイチローの話を聞いたのか、ストッキングをヒザまで上げるオールドスタイルの格好をしている。このスタイルを、昨年 のWBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)から取りはじめたイチローは、「このスタイルになって、足が開放されたようになって、動きやすい」と 言っている。つまりパンツをシューズのところまで下ろして履くと、パンツが足を押さえてしまって、動きが鈍くなるというのである。つまりイチローは、そこ までの計算をしながら、あのオールドスタイルを決めていることになる。

 イチローは大リーグのたった一試合しかないオールスター戦について、「このはなかさがなんともいえず好きだ」と語った。まさに、大リーグオールスター戦 は、夏の夜空に煌めいて、一瞬に夢のように消える大輪の花火に似ている。

 チーム数の多いアメリカでは、一度その都市でオールスターが開催されると、20数年は帰って来ない計算になる。つまりそこに住む市民にとっては、一生に 1回か2回のお祭りなのである。そういえば、球場には、子供から大人まで、実に多くの人が、この国民的なイベントを楽しんでいた。今年のサンフランシスコ でもボランティア2500人を募集したが、たちまち5000人以上の人の応募があり、抽選で選ばれたようだ。

 そんなアメリカ人の夢の球宴の主役になったのは、サンフランシスコの英雄でハンク・アーロンの755本の大リーグホームラン記録まであと4本と迫るバ リー・ボンズ(当日は2打数0安打)ではなく、イチローだったというのは、日本人にとっても、実に嬉しいニュースだ。いや、ベースボールがアメリカ文化と なっている国アメリカでは、イチローは日本人としてではなく、アメリカ大リーグのスーパースター「ICHIRO」でしかないのかもしれない。

 またひとつ、イチローは大リーグの歴史に新たなイチロー伝説を刻み込んだのだ。


新イチロー論

2007.7.11  佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ