現代のおとぎ話 なぜ民主党代表選挙で 菅直人氏が勝利したのか!?

新宿駅西口での立会演説会
(2010年9月4日撮影)

河合隼雄氏の中空構造論と民主党代表選挙

民主党代表選挙において、菅直人氏が勝利したことについて、ユング心理学者故河合隼雄氏の「中空構造日本の深層」の視点から、見てみたい。

まず河合氏は、日本の神話の分析から、権力機構の中心に空疎な存在が位置することを発見し、これを「中空構造」と呼んだ。例えばアマテラスとスサノオの間に存在するツクヨミがそれである。ツクヨミは月を擬人化した人格で夜を司る神である。これに対しアマテラスは太陽神であり、その弟がスサノオという乱暴な者で高天原から追放された神で出雲の須佐地方ヤマタノオロチを退治して出雲の王となるのである。ツクヨミは、まったく存在感がない。日本の神話には、このツクヨミに当たる構造があることを河合氏が発見した。これが中空構造の簡単な説明である。何故ツクヨミは神話に登場するのか。

ところで、日本には天皇制というものがある。ズバリと言えば天皇制は、藤原氏が自分が摂政という形で、背後から権力を操るための巧妙な政治システムである。藤原氏は、名字のない天皇家に自身の娘を代々嫁がせ、連綿と天皇を生み出す権力維持装置を作り出したのだ。

この権力構造の特徴は、力のある者が背後に控えていて、天皇には名目的な権限はあるものの、実質上の一切の権力機構は藤原氏が保有するというものである。戦後の日本憲法における象徴天皇制は、日本人の精神構造や権力構造の特徴を上手に利用した戦勝国アメリカの智慧とも言うべき一手というべきだ。

日本人は、とかくこのような権力構造に歴史的に慣れ親しんできたためか、本当に力のある者とは、背後にいるものだという認識がどこかに働いているのかもしれない。

今度の民主党選挙で、日本政治の中でNO1の実力者と思われる小沢一郎氏が、党の代表となり、結果日本国の首相という最高権力者になれば、日本の中空構造の文化を打ち破る珍しい例となるところだった。

だが、日本人は、より具体的な政策を次々と発言した小沢氏を選ぶのではなく、曖昧模糊とした政策を掲げた菅氏を最終的に代表に選出した。ここには冷厳な政治の論理よりは、マスコミの垂れ流す「政治とカネ」や「短期間に何人も首相が替わるのは恥ずかしい」などの情実的な観念によって、判断した結果だと見る。

ここに日本神話にある日本人の中空構造の権力機構を生み出す精神性(文化)が働いたのかもしれない。

もっと分かり易く言えば、ズバリと地方に財政を渡すと言ってみたり、沖縄基地問題では、沖縄とも米国とももっと対話をする、日本の政治そのものに大変化をもたらすような政治を恐れているのかもしれない。

ともかく、力のある者が最高権力には、就かず調停者のような無能な人間が、中心に居れば、権力の中空性は保たれ、官僚や大新聞社のような旧権力が、自らの命が繋がったとほっと胸をなで下ろしたのではあるまいか。その意味で、今回の民主党代表選の真の勝利者は、国民世論などではなく、官僚機構や大新聞のような旧権力の連中である。大新聞が、社説その他で「国民世論の勝利」などという馬鹿げたレトリックを掲げた。大笑いをしてしまった・・・。 

2010.9.15 佐藤弘弥

義経伝説
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