聖夜マイルス

名盤「Round About Midnight


 
 

昨夜、部屋を暗くして、マイルス・デイヴィスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」に浸った。既にこの名盤が録音されてから早43年の歳月が過ぎ去ろうとしている。しかしその音の素晴らしさは、少しも色褪せることがない。静に聴いていると、今まさに新しい音楽が、創造されているような錯覚にとらわれて、鳥肌が立ってくる。
 
Round About Midnight CBS,AAD,m,1955 1:Round midnight; 2: Ahleu-cha; 3: All of you; 4:Bye bye ackbird; 5:Tadd's delight; 6:Dear old Stockholm Miles Davis, John Coltrane, Red Garland, Paul Chambers, Philly Joe Jones

マイルスのミュートトランペットが流れる。20代前半のマイルスは、そのエネルギーのすべてをトランペット込めて、かなり抑制の利いた音色で吹いている。静かな曲なのに、ものすごい凝縮されたソウル(魂)を感じてしまう。泣けてくる…。

変化の激しい現代にあって、このマイルスの演奏は、JAZZ史上に永遠と光り輝くものだ。

最初にこのレコードを聴いたのは、私がおそらく20歳か21歳だったと思う。要するにマイルスがこのアルバムを演奏した歳とほとんど同じ歳であった。その時、頭がクラクラするほどの衝撃を受けた。このジャケットのマイルスの憂鬱(ゆううつ)そうな表情にもアートを感じた。このジャケットを自分の狭いアパートの隅っこに飾ってみたりしたりもした。当時このアルバムは、私にとって、宝物であった。

それから早くも二十年以上が過ぎ、かつてレコードに針を落として聴いていたものは、CDに換わった。しかしマイルスの「ラウンド・ミッドナイト」の素晴らしさは、変わらない。逆に感動が増していくようにすら思える。

もし演奏の才にたけた連中が、そっくりそのままこのアルバムをコピーしたとしよう。今の録音技術はすごいから、きっと素晴らしいものになるだろう。しかしどんなものが出来ようと、あの時のマイルスを越えることは絶対に不可能である。我々は音の良さを聴きたいのではない。マイルスという人間のなかにあるソウル(魂)に触れたいのだ。このアルバムは、マイルスと彼を取り巻く、天才たちが、時代というものを背負って作った小さな宝石そのものだ。

確かにあの頃のマイルスのやり方は、すさまじかった。ジョン・コルトレーンのような才能あるミュージシャンを集め、簡単な譜面を渡し、後は指を鳴らしてテンポを決めるだけ、それで録音を済ませて終わりである。たった一回の勝負、それも練習もほとんど無しである。今やジャズピアノの巨匠と言われるビル・エバンズ(このアルバムには入っていないが)ですら、マイルスの余りの革新的な音創りに、ノイローゼ状態となり、「どうしていいか分からなかった」と語っている。

我々もどうしたらいいか分からない位の革新的な仕事がしたいものだ。

そうだ。このアルバムを今年のみんなへのクリスマス・プレゼントにしよう。一九九八年を振り返り、そして新たな年を迎えよう。長い冬の夜長、マイルスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を聴きながら。メリー・Xマス、ハッピーXマス。佐藤
 


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1998.12.24