行列のハイライトは9番目を歩く妊婦の阿亀(おかめ) この女性は頼朝の愛人「亀の前」を象徴する・・?! (2011年9月18日 佐藤弘弥撮影) |
鎌倉坂ノ下の御霊神社で、毎年9月18日、「面掛け行列」という奇祭(神奈川県無形文化財)が行われる。
江戸時代には、鶴岡八幡宮の祭礼だったようであるが、この祭は、かつて「非人面行列」と言われる祭だった。言い伝えとしては、かつて頼朝が非人の女性を孕 ませたことで、そこで年に一度、無礼講を許して、非人たちを祭に参加させたというものだ。これは行列のハイライトに、阿亀(おかめ)行列があるための「こ じつけ」であるかもしれない。 頼朝の妾(めかけ)に有名な「亀の前」がいる。夫頼朝の浮気を知った北条政子は、逆上し、亀の前が囲われていた家来の家を、粉々に破壊してしまう。亀の前は命からがら、逃げたという。 吾妻鏡(寿永元年六月一日=1182年6月1日)には、頼朝が伊豆の流人時代から知り合いであった亀の前は、容姿が美しいだけでっはなく、大変心根の優し い女性であったとまで明確に記している。またこの娘の父の名を「良橋太郎入道」としている。亀の前の父は、在家出家者だったと思われるが、身分の低い人物 であったとは考えられない。 さて祭の手順であるが、天狗(サルタヒコ)に道案内された神が神社の氏子の待つ辻々を神輿に担がれてご巡幸するというもので、これだけ見れば、ごく一般的な神輿渡御の形式である。 問題は、非人の形相の面を付けた10人の異形の神々が、いったい何を象徴しているかという点にある。 10の面とは、順番に、爺(じい)、鬼(おに)、異形(いぎょう)、鼻長(はななが)、烏天狗(からすってんぐ)、翁(おきな)、ひょっとこ、福禄(ふくろく)、阿亀(おかめ)、女(とりあげ=産婆の意味か?)の順である。どうも、古い神楽面のようでもある。 見ていると、午後二時半過ぎ、行列一行が、神社から大通り(星の井通り)に出て、東に星の井付近まで行列し、戻って西に由比ヶ浜のバス停付近まで行列をして、御霊神社まで戻って終了となる。 行列では、行列の9番目に歩く「阿亀(おかめ)」が人気がある。妊娠した大きなお腹を撫でながら、上を向いて歩いていると、沿道から女性が、そのお腹を遠慮なく撫でに来る。安産の御利益があるということだ。 この祭を、別の角度で考えてみる。極楽寺周辺から、坂ノ下、長谷と来て、鎌倉大仏のある周辺は、鎌倉においては、忍性(1217−1303)という真言律 宗の偉い僧侶が、社会的弱者を救済するため、病院施設などを建設していた地域である。この一大社会事業には、時の鎌倉幕府も大いに後押しをして、この貧民 救済事業の資金として和賀江島の利権や荘園などを寄進して、忍性の社会事業を大いに助けたことが知られている。大仏前の桑ヶ谷には、ハンセン病患者のため の病院「桑ヶ谷療病所」が存在したこともある。 とかく鎌倉は、武家の町鎌倉ということで、血生臭い、御家人同士の死闘のイメージがある。だが、鎌倉という都市は、そのイメージとは、まったく違って、 様々な階層の人間たちが、鎌倉にくれば、何とか暮らしていけるという救済の都市の側面もあったのではないだろうか。祭の行列と一緒に歩きながら、そんなこ とを感じてしまった。
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