7月月間MVP

マツイ絶好調の秘密を解く

− 打席での「静かな・間」とは?!−


 マツイが大リーグ月間MVPに

ヤンキースのマツイが久々に活躍をし、MLBアメリカンリーグの07年7月の月間MVPに輝いた。これは、ノモ(2回受賞)、イラブ(二回受賞)、イチ ロー(一回受賞)に続く、日本人六度目の快挙だ。

マツイの7月の成績は、打率が345、ホームラン13、打点28だった。特にホームラン数113本は、ヤンキースのスーパースターA・ロッド(アレック ス・ロドリゲス)の4月の月間114本に迫る成績で評価されてよい。これまで私から見ると、マツイは性格が謙虚過ぎて、自分で心にブレーキを掛けているの ではないかと思ってきた。

一年目に確かマツイは、自分はアメリカでは長距離打者ではない旨の発言をしたことがある。確かに当時のチームメイト、ジオンビーなどのパワーの前では、マ ツイのパワーは明らかに、劣っているように見えた。日米野球で訪れた大打者バリー・ボンズもマツイをよい素質を持ってはいるが、まだアメリカでは、そんな にホームランが打てないだろう。18本がいいところではないかと漏らしたことがある。

一年目のマツイの成績は、打率が297、ホームラン16、打点106だった。流石にボンズの目はあっていたことになる。その後のマツイは、2年目に31 本、3年目に23本、4年目の去年は、守備での大けがもあって8本に終わり、今年の5年目も故障などもあって出遅れ、一時はマツイはトレードに出されるの ではないかと思われていた。

確かに6月までは、一年目の「ゴロキング」の汚名が復活したかのような状況だった。そして7月はMVPの大活躍である。


 マツイ絶好調の秘密

マツイが、本当に不振から抜け出したかどうかは不明だが、ひとつだけ言えることはある。それはバッターボックスでマツイ自身の動きがとても「静か」になっ ていることだ。

今のマツイは、打席の中で、ムダに動かず、バットを振らず、じっと打つべき球を待っている。それに良く見ていると、打つまでに、フッとした「間」を作れて いる。以前は、打ちたいという気持がハヤって、軸が前に行って、ボールの芯を外し凡打ばかり打っていた。でも、この頃のマツイを見ると、頭の位置がピタリ と決まり、まさに「静か」な「間」を持てている、という感じがする。

この「静かな・間」こそが、150キロの速球や、目前で上下左右に変化をする変化球(緩急の幻惑)を捉える打撃の奥義ではあるまいか。もちろん、奥義だか ら、口でいうほど、簡単ではない。ちょっとした感覚で、この感覚が長く持続できる打者が好打者と言われるのだ。

またこれを投手から見れば、投げる瞬間に相手の打者の「呼吸」や「間の取り方」を感じ、その呼吸に合わせるようにしながら、実はホンの僅か、その「間」を 外すように投げるのが肝要となる。投手で、この呼吸が分からない者は、「まるで独り相撲を取っているようだ」ように見える。こうなると、後ろで守っている 野手との呼吸も乱れて、エラーが出たりする傾向がある。私は現在マツザカが、投手の「静かな間」とも言えるこの「相手に合わせる呼吸」が取れず、ちょっと したスランプに陥って、勝ち星が上がらないのだとみている。それもマツザカの才能は乗り越えていくに違いない。

それにしても、マツイの中で、大きな精神的な変化があったのかもしれない。マツイはインタビューで、「いつもは見ないHPも見てみた」という話しをしてい た。

私はマツイの師である長島茂雄さんからでも、

マツイよ、君は間違いなく大リーグ有数の ホームラン打者だ。自信をもって、野手の間を抜く気持ではなく、野手の頭を越すつもりの異イメージでバットを振ってみなさい

と言われたのではないかと思ったほどだ。

まあ、事の真相は不明だが、私は以前からずっと「マツイは自分を勝手に中距離打者と思わず、日本でホームランを量産していた時と同じようなイメージで打つ ことが大事だ」と思ってきた。

ところが、良い意味でも悪い意味でも謙虚過ぎる(?!)マツイの心は、自分で勝手に中距離打者のイメージを作り上げて、中距離打者の打ち方をさせていたの である。中距離打者の打ち方を技術的に言えば、ボールの中心をバットの芯で叩く打ち方である。それに対しホームランを打つには、ボールのやや下っ面を叩い て、ボールにバックスピンを掛けて打つことだ。マツイは日本では、後者の打ち方を常に行っていたが、アメリカでは明らかに、前者の打ち方になっていた。そ れが7月には、どうした訳がホームラン打者の打ち方に戻っていたのだ。


 マツイの好調は謙虚過ぎる日本人へのエール?!

思いこみは、自分の心にプログラムを発動させることに通じる。マツイの場合もそれが彼のホームランに思いっきり、ブレーキを掛けていたと想像できる。ま あ、それが迷いと言えばそれまでだが、マツイは、人がどう思おうと、「自分はホームランバッターだ」と言い聞かすことが大事なのだと思うのである。

このマツイの変身について、私たち一般人にも当てはまることがある。人は自分を勝手に小さく小さく、小さな自分をイメージしてはいけないということだ。自 信を持ち過ぎるのも、いけないが、自分の器以下に、自分を過小評価している謙虚すぎる日本人を最近よく目にする。

その意味で、マツイの復活は、私たち日本人が小さくなろうとする心的傾向への「気づずかせ」であると思う。昨今の日本人は、かつての自信はどこえやら、自 国の経済と文化に対する過小評価をしている気がする。日本人は、そろそろマツイの打撃の開眼にあやかり、心の中でブレーキを踏まず、もっと堂々と自己主張 をして、世界に飛び出しても良いのではあるまいか。



2007.8.4 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ