書評 山崎正和著「文明としての教育」

人類史を踏まえた普遍的教育論

劇作家山崎正和氏が、この度、「文明としての教育」という新書を「新潮新書」として発表された。この本は、教育者や子を持つ親に限ら ず、多くの日本人に読んでもらいたい好著である。

本書は、小学六年の山崎少年が第二次大戦で中国奉天から引き揚げてくるところから始まる。ここには暗黙の非戦の思考が伺える。

著者の山崎正和氏は、現在「中央教育審議会」の会長を務められている人物だ。ともすれば、その肩書きを聞いただけで、政府よりの保守的 な人物→読みたくない、となる人もいるだろう。しかし著者山崎正和氏は、そんな小さな発想をする人物ではない。

本書の中にこのような下りがある。

国を愛する教育とはどのようなものであるべきか・・・大和文化には優れた特徴もあ り、興味深い文化であることはたしかですが、必ずしも昔から全 国、東北や九州、あるいは沖縄にまで広がっていたものではありません。さらにいえば、日本という国には、アイヌの人たちの文化もあれば、六十万人といわれ る在日韓国・朝鮮の人たちの文化もあり、中国文化の影響の色濃い沖縄の文化もあって、きわめて多様な文化が折り重なっているのです。」 (164ー165 頁)

著者はそのような日本社会の奥にある多様性を認めた上で、「二〇〇六(平成十八)年十二月に改定された『教育基本法』」がことさら「愛 国心」を強調したことに対し、次のような疑問を呈している。

仮に『伝統と文化』が大和文化を指すとすれば、それを愛すること自体に問題はない にしても、大和文化を愛することと、そして現代の『我が国』を 愛することの二つを論理的に結びつけることは大きな問題があるからです。・・・愛国心とは、何より現代の日本社会、すでに多様な要素を含んだ文化にたいし て向けられるものでなければならないでしょう」(166頁)

著者山崎正和氏の深い見識(歴史観、文明史観)によって書かれた非常にバランスの取れた秀逸の教育論だ。言葉が洗練されていてとても読 みやすい。この本を切っ掛けに、今後の「日本の教育をどのようにするのか?!」という大議論が日本中で巻き起ることを期待したい。

文明としての教育 (新潮新書 241) 文 明としての教育 (新潮新書 241)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2007-12



2008.1.6 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ