高館上空の黒雲の暗示
 

柳の御所跡から高館を望む
(09年7月25日 佐藤弘弥撮影)



柳の御所跡から金鶏山、関山(中尊寺)、高館山を遠望する

今年の東北の梅雨明けは遅い。09年7月25日、平泉を訪れた。柳の御所跡から、北に高館を望めば、これまで、発掘のために、長い間、潤いのなかった大地に芝生が敷かれていて、少 しこざっぱりした雰囲気がした。それでも、発掘の跡がむき出しになっているよりは良いという程度だ。田んぼも民家もなくなり、砂を噛むような味気のなさに変化はな い。

高館の上空には、黒い雨雲が重く垂れ込めていて、今にも泣き出しそうな空だった。黒い雲が平泉の山野と感応しているように感じられた。少しして、突然雷鳴が聞こえ、激しく雨が降ってきた。

周知のように、柳の御所跡は、奥州平泉の国会議事堂に当たる建物「平泉館」があったところで、江戸時代に芭蕉が「奥の細道」の旅で、やってきた時には、田畑が拡がっていた。

芭蕉は、高館山に登り、周囲を見渡し、栄華の跡に、ただ夏草が一面生い茂っている景色を見て、「夏草や兵どもが夢の跡」と詠んだのである。

今この地を平泉バイパスが横切り、騒音が充満し、北上川の河道は、東に移動してしまった。

平泉の世界遺産のコアゾーンとしては、明らかに相応しくない場所となり、登録から、この地を外す動きもあると聞く。残念ながら、それも仕方のないことだ。

この黒雲が垂れ込めた景色が象徴しているものは、何か。私たちに何を気付かせようとしているのだろうか。

2009.7.27 佐藤弘弥

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