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「転ばぬ先の杖」ということわざがある。もちろんこれは、用心の為に杖を持っていれば、転ばなくて済む、という意味である。分かっていても、なかなかこうはいかない。特に若くて、病気もなく、元気なうちは、自分が病気に罹ったり不健康になるということの想像がつかないものだから、つい杖など、自分には必要ないと思ってしまいがちだ。 人間だけではない。国家でも、企業でもこれは同じで、絶好調なうちは、まったく「転ばぬ先の杖」など考えない事の方が多い。ところがいつも人生が順風満帆ではないように、国家や企業にも、窮地というものが必ず訪れる。 『晏子』などの作品で知られる中国文学者の宮城谷昌光氏が、面白いことを云っている。
この言葉を分かりやすく解釈すれば、杖が必要のないうちから、杖を意識していないと、滅びは早いぞ、ということになる。世に若い人は多いし、様々な面で調子の良い人も多い。まさに飛ぶ鳥を落とす勢い人だ。ところが、こんな連中でも、心に用心という杖を持っていないと、簡単に転んでしまうのが歴史(世の中の変転)の法則というものなのである。国家でも、企業でもこの自然の流れに逆らうことは出来ないのである。平家物語の言い回しで云えば「盛者必衰の理(ことわり)」である。 ただしそこで転びに関わる自然の法則というものを熟知していれば、そこで杖を用いて転ばずに、上手に災いを逃れて、天寿というものを全うすることができる。現代の感覚であれば人間は、少なくても80年の人生を歩んで初めて「天寿全う」という言葉が使えそうだ。そうするためには、若い頃から、心の中に「用心の杖」を持っていなければならぬ。 さて私自身、心の中に何かしら、杖に当たるものを持っているだろうか。
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2000.6.30