2月8日昼頃、突然「キリンとサントリー」の統合交渉打ち切りのニュースが入ってきた。09年7月、突然発表されたビッグメーカー同士の経営統合は、約半年余りで、やはり唐突にご破算になったことになる。

経営統合破談の原因は今のところ、統合比率とサントリー創業家佐治家の影響力を残すかどうかの二点が障害となったと見られている。

周知のように、企業文化のまったく異なるキリンとサントリーが、経営統合するということで、多くの識者が「ほー」と唸ったものだ。唸った理由は、「リーマン・ショック」に端を発した世界的不況の時代にあって、日本の大企業でも、企業文化の違いなどと小さなことを、言っていられない時代に入ったのだな、と思ったからだった。私は、これは英断だ、と感じた。

私見によれば、これからの企業経営に求められるものは、グローバルな視点、低炭素時代の到来に向けた商品開発力、強力なガバナンス(企業統治)能力の三つである。

日本の企業の場合、日本企業の中では、大企業でも、世界的企業のレベルで言えば、ファイナンスの実力を含めた企業の総合力評価では、たとえ新日鉄のような大企業でも、インドの鉄鋼メーカー(タタ・グループ)に買収対象にされるような企業文化を持っているお行儀の良い企業に過ぎない。インドのタタ・グループは、インドの最大の大財閥であるが、このこところ、企業買収に積極的になった。粗鋼生産の生産量規模では、新日鉄(世界第二位)より下位の第4位であるが、世界中の鉄鋼メーカーを次々と買収し、新日鉄にも触手を伸ばした。そして今や粗鋼生産や自動車メーカーを中核に野心的な経営を展開するボーダーレスな複合企業に大変身中だ。

このような弱肉強食の世界経済の中にあって、世界的な企業経営を目指す企業は、日本の中における文化の違いのことで、あれやこれやと異質さを探すよりも、同じ日本文化圏の中で育ったという同質性こそ認識すべきかもしれない。もっと言えば、日本的経営の良さを活かしながら、国際的企業間競争に堪えうる新しい企業文化を構築する必要がある。世界経済が否が応でもグローバル化する中にあって、日本の大企業も生き残りをするためには、買収対象にならないような筋肉質の企業体質を作り上げなければならないのである。

おそらく、キリンとサントリーという企業は、世界経済が刻々とボーダーレスなものになっている中にあって、真に世界的な企業に脱皮するために、違いを乗り越えて行こうとの強い決意に立って、交渉に入ったものであろう。しかしながら、合併はならなかった。結局のところ、洩れ伝わってきた話にいよれば、合併に関わる損得(統合比率の食い違い)の面で、合意に至らなかったということである。

もちろん企業は規模が大きければそれでよいというものではない。だが、今回の合併の頓挫は正直に残念だ。キリンとサントリーという日本生まれの異文化を二つの企業の個性がぶつかり合って、新しい世界的企業が誕生することを期待したのだが、期待は見事に裏切られた。これではキリンは「日本の大ビールメーカー」で、サントリーは「関西の大洋酒メーカー」という昔の名前で出ています、で終わってしまうのであろうか。

2010.2.8 佐藤弘弥

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