流行り言葉で読む日本の世相(12)

 

カゴダッシュ殺人事件 とは?!

− 若者のゲーム感覚とコンビニ−

佐藤弘弥

07年10月6日午前0時50分ごろ、大阪寝屋川のコンビニで、「万引き殺人事件」とも「カゴダッシュ殺人事件」とも、形容したいような凄惨な事件が起き てしまった。

当初のマスコミの報道では、「6日午前0時50分ごろ、大阪府寝屋川市高宮のコンビニエンスストア「セブン―イレブン寝屋川高宮店」で、若い男2人が食料 品などを万引きしたのを、レジカウンターにいたアルバイト店員の上内健司さん(27)(寝屋川市東神田町)が発見、2人を店の外まで追いかけ、同店から南 約160メートルの歩道上で、うち1人に刃物で左胸を刺され」(読売新聞 10月6日)死亡、というものだった。

ところが、その後、19歳の少年が自首してきて、「初めての『かごダッシュ』をした」(朝日新聞 10月8日より)という供述が明らかになって、世論は、 「何だ?その『カゴダッシュ』って」、となったのである。

確かに少し昔「ピンポンダッシュ」というイタズラがあった。子どもが勝手に近所の「インターホン」を押して、全力で逃げるというたわいないイタズラだ。

今回の「カゴダッシュ」は、「ピンポンダッシュ」と違い、単なるイタズラでは済まされない悪質な強奪行為だ。また単なる「万引き行為と」も違い、店の品物 をこっそり持ち逃げしようとしたのではなく、店の買物カゴを堂々と持ち、自分が欲しいものをどんどんとカゴに押し込み、外に向かって、ダッシュで逃げると いうものだ。

ところがこれを実行する少年たちは、「ピンポンダッシュ」同様、一種の「ゲーム感覚」でやっているようである、だからレジで、包丁でもぬっと出して「金を 出せ」とやる「現金強盗」までとはまったく違うと思っているフシがある。

「カゴダッシュ」という言葉は、「カゴ」を持って「ダッシュ」するという、ふたつの言葉から成り立っている。これはまさに犯人の少年たちの不良仲間たちが 作った「造語」なのである。この「カゴダッシュ」という言葉を使うことで、少年たちから罪の意識が消えたのだろう。言葉の魔法に罹っているのだ。

つまり、「アメリカ流の市場経済に合流すること」を「グローバリゼーション」としたり、「首切り」を「リストラ」と言い換えることで仕方ないと思わせるよ うに、少年たちの間では、「強盗」が「カゴダッシュ」と置き換わり、「度胸試し」や「ゲーム」のようになってしまったのである。そしていつしか、「カゴ ダッシュ」というものを、自分もやって、仲間に自慢でもしてやろうと思って実行した可能性が高いのではないだろうか。

犯罪を犯した少年の心の中では、仲間の間での通過儀礼的な思考が働いていたということも考えられる。

また日頃携帯しているナイフについては、これで脅かせば、相手は怯んで逃げるという安易な考えがどこかにあったのである。未熟な精神と言えばそれまでであ る。

一方、今回殺害されたコンビニでアルバイトをしていた青年は、正義漢があり、学生時代にはサッカーをやっていたスポーツマンだったようである。通常なら、 諦めるところだが、体力にも自信があり、正義感も人一倍で、黙って見過ごせる人物ではなかった。結局、店から160mも追いかけたところでもみ合いとな り、犯人の少年の「脅せば逃げる」というシナリオは狂ったことになる。

最近のコンビニ周辺の地域は、ひとつ間違えば、犯罪の温床になってしまうような現実がある。今回犯罪を犯した若者も、日頃から事件を起こしたコンビニ周辺 で、夜遅くまでたむろしていたのが目撃されていたようで、「少年らは公園でたばこを吸ったり酒を飲んだりと、悪さをしていた。自治会でなんとかしようとし ていたが、遅かった」(地元の70歳の男性の話 朝日新聞 8日)とのことだ。

コンビニを経営する企業は、今回の事件を契機として、これ以上、若者の間に「カゴダッシュ」というものが拡散しないよう、警察当局や警備保障会社と防犯の ための連携を模索する必要がある。またその防犯対策は、「カゴダッシュ」事件の撲滅に留まらず、全国のコンビニで多発する「金銭強奪事件」の抑止効果があ るものとなることを期待したい。


2007.10.9 佐藤弘弥

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