スティーブ・ジョブスの逝去がアップルより唐突に10月6日午前9時前、発表された。

この一月、治療に専念するという発表。そして8月、CEO退任と、すい臓癌が進行いるのだろうと、悪い予感を抱いた。しかしこの間、当のアップルは、石油メジャー企業を時価総額で上回って世界一になった。

彼の天才を疑う者はいない。ジョブスの天才とはなにか。彼はけっして、GEの創業者エジソンのような創造の天才ではないかもしれない。反面彼の製品デザインには、あらゆる製品に、独特のポップな感覚やシンプルな美しさが漂っている。

ジョブスがジョブスたる由縁は、とにかくiPodやiPhoneやiPadを見れば一目瞭然なように世界中の消費者が、こんなものがあったら、是非欲しいと思わせる製品を、魔法使いのように、目の前に提示してくれることだったかもしれない。

70年代のマッキントッシュ・コンピュータに始まる彼の成功の背後には、常に彼一流の美意識と感性が働いていた。ジョブスの言葉に「点と点を結ぶ」という 発想がある。これはひとつの技術と別の技術を結んで新しい技術に統合して新しい製品を創り上げるアップルのやり方として結実している。

考えれてみると、現在世界を席巻しているiphone4は、特にジュッブスが新しい技術を開発して発表した製品ではない。言うならば、この製品は世にある コンピュータ技術の点と点をより複雑に結び付け、時にはライバル企業Googleの検索技術や地図情報ソフトを使用可能にして携帯電話をコンピュータ化す るということで成功した製品だ。

またiphone4の成功の背後には、開発言語をオープン化したことも大きかった。そこで、iphone4に夢を抱く世界中のソフト開発者は、凄まじい勢 いで、このユニークな製品で使用できるソフトの開発競争を行った。それもこれも、スティーブ・ジョブスというカリスマ経営者があっての世論喚起だった。 ジョブスは、製品を作るだけではなく、iphoneという市場を創り上げたことにもなる。

今回、死亡発表の前日、新しいiphoneの発表がなされた。しかし残念なことに、発売が期待されたiphone5ではなく、マイナーチェンジの iphone4sとなった。これはアップルの今後を暗示させる象徴的な出来事になるかもしれない。これほどインパクトの薄いコンセプトの製品であれば、 ジョブスなら市場に投入しなかった可能性もある。今回の発表は、はっきり言って、消費者をわくわくさせるものがない。私たちは、これからもっと、痛感させ られるかもしれない。製品を発表するたび、世を驚かせて、どうしても新しいアップル製品が欲い、と思わせる天才ティーブ・ジョブスは、もういない、という ことを・・・。合掌。

2011.10.10 佐藤弘弥

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