イチローの四割挑戦に思う

 

2000年6月10日。対日ハム戦でオリックスのイチロー選手が、シーズン途中とはいえ、夢の数字と言われる打率四割を達成した。

イチローの一途な姿を見ていると何か修行僧のような印象を受ける。それにしても六年連続で、パリーグの首位打者を取っているにも関わらず、野球に対する意気込みは衰えるどころか、ますます深まっていくばかりだ。普通なら、どこか油断や隙というものが生じて来るはずなのに、イチローにはそれがまったくない。実は昨年、彼は手にデットボールを受けて、シーズン終盤を棒に振ってしまった。

その時、私はこう思ったものだ。
そろそろイチローも限界かな。選手としての峠を越えたのかもしれない。たぶん反射神経が、どこかしら衰えて来たのか、はたまた集中力にも翳りがみえてきたのだろう。これまでなら寸前で避けられたボールに当たってしまうとは…”と

しかしその私の直感を、イチローは、己のバットによって、それが間違った判断であることを証明して見せた。野球の虫であるイチローだが、他の分野から学ぶことを忘れてはいない。実際にもイチローは、陸上選手のスタートダッシュの前傾姿勢を研究して一塁までの到達スピードが、昨年より、0.2秒早くなり、凡打をしても内野安打になる確率が増した。また自宅にも100坪のトレーニングルームを作って、最新の筋トレマシンを一五台も購入し、筋肉アップに専念している。またパソコンを導入し、打撃解析ソフトで、自分の打撃フォームのチェックを毎日欠かさない。ここまで徹底している選手は、日本広しといえどもイチローだけである。

それにしてもイチローは実に不思議な男だ。人を寄せ付けないような練習態度から、ストイックな面ばかりが強調されているかと思えば、今年の春には年上の女性と電撃的な結婚をして、周囲をあっと言わせた。それも自分が野球に打ち込める態勢を作ってしまうための最善策だったのだろう。数年前までは、確かチームの寮にいた方が、野球に集中できて便利といって、二軍の連中と一緒に生活をしていたこともあったはずだ。

どうも現在のイチローにとっての最大の興味は、単に首位打者とか、四割というものではないようだ。それはおそらく自分の才能に対する挑戦というものであろう。おそらく今年も首位打者を取ることはほぼ確実だ。夢の四割も案外あっさりと達成してしまうかもしれない。それでもイチローは、あの少年の面影の残る顔で、ますますひたむきに野球に取り組んで行くに違いない。彼には、良い意味でまだまだ自分の夢の限界というものが見えていないようだ。

おそらくあらゆるスポーツから文学、芸術にいたるあらゆるジャンルの中を見渡しても、イチローほどの才能を見つけることは難しい。イチローのひたむきさに学べ。佐藤
 


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2000.6.12