イチロー対バーランダー白熱の対決     一流が一流を育てる

マリナーズのイチロー(35)が対デトロイト・タイガーズ戦、リーグを代表するエース、ジャスティン・バーランダー(2006年17勝で新人王。26歳。196cm100キロを越える巨体)との戦いに燃えた。

バーランダーは、今シーズン現在13勝を上げ、最多勝争いを演じ、三振奪取も204個を取るリーグトップの成績を上げている。160キロ(100マイル)を計測するストレートが魅力の若き投手だ。

トロントブルージェーズのハラデ−などもそうだが、イチローはこのような超一流投手と対戦する時に、特別のオーラを出して対戦する傾向がある。それはおそ らく、ライバルの力量(レベル)に合わせて、さらに自分のバッテング技術を磨いて行こうというようなイチローのどん欲さの表れではないかと思う。そのこと をイチローは楽しむかのようにふり返ることがある。イチローにとって、このような力のあるライバルとの対戦は、特別な瞬間なのであろう。

まず今日の一回目の対戦。98マイルの外角高めの球を空振りして三振。バーランダーも相手イチローの異様なほどの気迫を感じたのだろう。全五球。すべて自分の最高の玉ストレート一本で勝負した。

2回目は、3回ツーアウト、ランナー1,2塁のチャンスの場面。ここまで両チームとも、点数が入っておらず、投手戦の様相。ここでイチローが打てば、バー ランダーにダメージを与えることになる。しかしここでも、バーランダーは、速球一本でイチローに立ち向かう。ファウルで粘るが、中々ボールが前に飛ばな い。イチローは7球目の97マイルの球を打ち損じて平凡なレフトフライでチャンスは潰れる。

3回目は5回、やはり0対0の同点の場面。ランナーを一塁においての初球だった。イチローは、初球の96マイルの速球を狙いしましたように強振。打球は低 い弾丸ライナーとなって、ぐんぐん伸びてライトスタンド前列に突き刺さった。バーランダーは、これで調子を崩されて、この回、もう一点を取られる。

4回目は、8回、ランナーなしの場面。バーランダーは、やはり1、2球と、速球でイチローを攻める。第3球目は、ややスピードを殺したチェンジアップ。イチローは、これをピッチャー返しのセンター方向へ打って、打球がセカンドベースに当たって、内野安打となる。


結局。イチロー対バーランダーは、イチローの4打数2安打で、イチローに軍配があがった。試合も、イチローのホームランが決勝点となって、3対1で、マリナーズの勝利となった。

それでもバーランダーはさすがだった。イチローに打たれたものの、自らで再度調子を取り戻し、8回を投げ切った。成績は、マリナーズを、ヒット6本、失点3点に押さえた。三振も10個を奪っている。

この日のイチロー対バーランダーの全14球。実に見所のある対戦だった。この内、変化球はたった一球だった。イチローの試合後の談話がある。

「僕のところに、来るまで時間がありますからね。最初から待っていなくても打てないわけではない。そういうレベルで野球してませんから」(共同より)

謎めいた話だが、これは会心のホームランを解説したものではなく、4打席目の内野安打を話したものだろう。イチロー自身、「自分は速球か変化球のどちらか に的を絞って待っているような打者ではない。」ということを言っている。しかも重要なのは、バーランダーのような160キロを投げるような速球投手でも、 自分のところに来るまでは、間がある。その間に、対処できる、と自信を覗かせていることだ。

160キロ(100マイル)の球が、ピッチャーの手を離れて、打者の目の前に来るまで、ほんの一瞬でしかない。その一瞬の間に、速球と変化球の急速変化に対応して、イチローは打ち返す技術を持っているということになる。

まさに、超一流のライバルの技量をテコにして、己のレベルアップを計るイチローの才能の本領がここにある。

2009.8.20

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