平泉バイパスの開通と
世界遺産登録延期の因果関係




佐藤弘弥


夏の雨降る高館
(08年8月14日 佐藤弘 弥撮影)

もうじき、この緑豊かな北上川の岸辺はコンクリートの護岸に変えられて消える運命にある?!


高館直下にテトラポッド工場?
(08年8月14日 佐藤弘 弥撮影)


高館直下の岸辺から草木は剥がされ、鳥たちの憩いの場は消えてしまう?!



八月五日平泉バイパス開通
(08年8月14日 佐藤弘 弥撮影)

景観に配慮したはずの平泉バイパスだが、やはり世界遺産登録のネックになってしまった!!

イコモスの勧告怒るその前に為すべきこと のあらんとぞ思ふ ひろや

平泉バイパスの開通と世界遺産登録延期の因果関係

08年8月14日、午前10時過ぎ、8月5日に開通したという平泉バイパスを車で走ってみた。真新しさも手伝ってか、平泉中心部をパスする自動車の多さが気になった。普段の通行は、これによって劇的に変わってしまうことが考えられる。要するに用のない車は、平泉をパスしてしまうということだ。

太田川の前でバイパスに乗り、新衣川橋で、旧道に迂回し、平泉方向に戻ると、対向車も含めて、ほとんど車が通っていない。もの凄く高くなった衣川堤防の建設に伴って、旧道沿いの衣川橋も架け替えられた。そしてこの辺りの景色は、驚くほど変わってしまった。

中尊寺のある関山を右に見て、中尊寺前の信号の前に行くと、駐車場は満車とのことだったが、本当なのだろうか。折りから、小雨が降っていたが、次第に雨脚が強くなっている。信号を通り過ぎ、左に折れて、東北線の線路を越えて、高館山に行く。参道を登って、一番気になったのは、平泉バイパスから洩れてくる音だ。音は上に向かうというが、予想以上に騒音が気になった。車は特に多いとは思わないが、北上川の川の音をかき消すように、ひっきりなしに、騒音が聞こえてくる。

滋賀県から旅行に来たという若者に、バイパスの存在を問うと、下を見なければ、そんなに気にはなりませんけど・・・」と、苦笑いを浮かべた。もうひとり、源義経ファンという女性に、同じ事を聞くと、「何故、こんな景色の良いところを台無しにするような道路なんか、造ったんですか。はっきり言ってがっかりです。」と答えてくれた。

二人が、じっと見つめる高館の直下には、騒音を出し続ける堤防兼用のバイパスが通り、さらに北上川の護岸に生える草木を剥がし、コンクリートにする計画があるらしく、テトラポッドが、兵馬俑の軍隊のように、並んでいた。地元の人の話では、高館直下で、テトラポッドを造りながら、護岸をコンクリートで覆ってしまうのではないかと言うことだ。

それにしても、7月6日、世界遺産の登録延期が決まったばかりなのに、それとはまったく矛盾した動きを、国土交通省は、実行していることになる。今年の第32回ユネスコ世界遺産会議(カナダケベック市で開催)では、ドイツのドレスデンにあるエルベ川(ユネスコ世界遺産登録名「ドレスデンにおけるエルベ渓谷」2006年危機遺産リスト入り)に橋を建設する計画があり、この橋を造った場合には、ユネスコ世界遺産から除外する旨の議論がもたれた。結局、世界遺産登録からの除外はされなかったが、ユネスコは、これからも、監視を続けるという厳しい姿勢を示した。

一方日本では、まだ登録もされていない「平泉」において、コアゾーンのすぐ脇で、平泉バイパスや新高館橋や、岸辺の草木が剥がされて、コンクリートの護岸に造り替えられようとしている。

イコモスは、7月6日の候補地平泉の登録に関し、「延期」を勧告とした根拠について、持ち時間の5分を大きく越える8分の報告を行った。その中で、平泉バイパスや新高館橋、衣川堤防などの計画があることに言及したということだ。

考えてみれば、エルベ川は、登録後のゆゆしき景観破壊の実例だが、平泉の場合は、登録される前に、一方の手では、登録をユネスコに申請しながら、もう一方の手では、ユネスコ世界遺産の登録基準に反する開発思想で、景観の破壊に通じる行為を行ってしまったことになるのではないだろうか。

もしも、今平泉で、実際に行われている景観破壊を見たら、世界各国のユネスコ委員は、何と言うだろう。「あなた方は、本当に世界遺産に登録して欲しいと思っているのですか?」とでも言うだろうか。


2008.8.18 佐藤弘弥

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