流行り言葉で読む日本の世相 (11)


「円キャリートレード」って何?!



最近、「円キャリートレード」あるいは「円キャリー取引」と呼ばれる言葉をよく耳にする。英語で言うと「yen carry trade」となるが、実はこれは和製英語で、「円」を買い、これを直ちに売って、他の通貨や金融商品などを買って、利ざやを稼ぐ行為で、別名「円借り取 引」とも呼ばれる。

ところがこの和製英語が俄に国際的にも通用注目されるようになってきた。その背景には、機関投資家のみならず個人投資家までが、この旨過ぎる話しに乗って きて、「円キャリートレード」が世界経済に及ぼす影響が大きくなってきたことに問題がある。

最近では、この「円キャリートレード」という取引が、日銀の利上げ方向へのシフトのスピードを鈍らせる制約要因になっているという見方もある。

そしてまた、実体経済に明らかに見合わないほどの円安が進行しているが、その最大の要因が、この「円キャリートレード」があるとしたら、これは黙って見過 ごせない問題となるのである。

しかし今年の2月に開催された先進「7か国財務大臣・中央銀行総裁会議」でも、今年の6月ドイツのハイリゲンダで開催されたG8の会議でも、この行き過ぎ た円安と「円キャリートレード」の問題などは、円安問題に触れてユーロ諸国が懸念を表明したようであるが、声明では、「ヘッジ・ファンドや、クレジット・ デリバティブ」と名指しされることはなく、日本経済の動向に対する認識は、双方の会議でも「日本の経済回復は順調であり、継続が見込まれる」(G7財務大 臣・中央銀行総裁会議声明)と、実体経済をほとんど反映しているとは言い難い円安是正の方針はついに盛り込まれなかった。

逆の見方をすれば、国際経済という枠組みの中で、「円キャリートレード」という手法が一定の認知を受けているということが言えるのかもしれない。もっと言 えば「円キャリートレード」という極めて不自然(?)不安定な取引によって、世界経済は支えられているということにもなる。

一方では、日本人にとって、現在のような度を越した円安が進行していることは何を意味しているだろう。考えてみれば、円安は、私たちの財産が相対的に目減 りをしていることを意味する。

私の知人にヨーロッパに子供を留学させている人がいるが、最近の対ユーロに対する円安によって、数年前に比べて時価が4割も目減りする状況となって、留学 した子供たち自身の生活が脅かされているという話しを聞くと、この円安に対して、人ごととは言えないのである。

ところで、日銀出身の国際的エコノミスト鈴木淑夫氏は、自らのHPで、最近「国際決済銀行(BIS)」も円安の行き過ぎを「異常」と警告」している、とし て以下のような注目すべきコメントを(H19.7.12)をしている。

「(前 略)この程発表された国際決済銀行(BIS)の『年次報告書』(77th Annual Report ― 1 April 2006 31 March 2007)においても、円安がはっきりと問題視されている。

【BISの年次報告書の警告】
 (中略)
 「最近進んでいる円相場の下落には、明らかに異常なもの (clearly something anomalous)がある。金融引締め政策は、この事態を直す助けになるかも知れないが(would help to redress this situation)、根本的な問題(the underlying problem)は、今後円高が大きく進むことはないだろうという、投資家の強過ぎる確信(too firm conviction)にあるように思われる。釣り合いを取るには(as a counterweight)、1998年の秋にたった2日間で円が対米ドルで10%も上昇し、円キャリ取引を行っていた投資家が多大の損失を被ったこと を考えるよう促すのがよいかも知れない(might be better encouaged to consider)。」

【円安の行き過ぎにはバブルの要素がある】
 BISはバブルという言葉を使っていないが、円高は起らないという強過 ぎる確信が、リスクを忘れた円キャリ取引の累積を起こし、異常な円安を招いていると言っているのであるから、バブルが発生していると言っているのと同じ だ。(後略)」

鈴木氏のコメントで大事なことは、世界経済を知るBISのような専門家たちが、「円安」をバブルと認識しはじめ、その背景に「円キャリートレード」がある という明解な見解を表明していることだ。

私たち日本人は10年ほど前のバブル経済の崩壊という苦い経験から、バブル崩壊がもたらす衝撃を身をもって知っている。とすれば、もはや流行語になった感 のある「円キャリートレード」という話しが知人友人から、儲かる話しとして聞かされたら、「君子危うきに近寄らず」、円キャリートレードもバブル状態なん だよと教えてあげるようにすべきだろう。




2007.7.19 佐藤弘弥


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