追悼 プロレス
ラー橋本真也
あのプロレスラー橋本真也が脳幹出血で10日急死した。享年40歳。余りに呆気ない最期だった。
ハガネのような頑丈な肉体も、見た目とはだいぶ違っていたのかもしれない。血圧も高かったようだし、結局は肉体酷使のプロレスという稼業で、寿命を縮めて
しまったというべきか・・・。
人は誰も見かけ上のものとは異なる深い悩みを抱えて生きている。強い人間になりたい。世界一強い男になりたいという夢を追いかけながら、橋本真也は、アン
トニオ猪木という人物を師と仰いで食らい付いてきた。しかし少年時代のヒーロー猪木自身が、多額の借財を背負いながら、ピエロのような役回りをしていたこ
とも確かだ。
おそらく少年の頃、アントニオ猪木というスーパーヒーローに憧れ、ひたすら辛い修行に耐えてきた橋本少年は、いつしかヒーロー猪木の裏の姿を見てしまった
のかもしれない。それは人生において、ヒーローとして存在することの現実を垣間見た瞬間だったに違いない。彼にとって猪木はそれでも乗り越え不能な生涯の
ヒーローとして君臨していたのだろう。
現実の橋本真也とブラウン管で見るプロレスラー橋本真也はまったく違う人間だったと思う。彼は実にナイーブな顔をしていた。柔道から転出してきた小川直也
と対決し、負けた結果、橋本は、たった一言「申し訳ない」と頭を下げて、リングを降りた。負けたら引退するという約束を実行した瞬間だった。彼のうつろな
目からは、大粒の涙が流れていた。
その後、ファンの声援によって、引退を撤回し、リングに復帰したものの、頑張れば頑張るほど、彼の表情は辛そうに見えた。男がいったん口にしたことを、撤
回したことに対する負い目のようにも思えた。
橋本は古い男である。約束を違えることが、男の価値を下げるということを誰よりも知っていたのであろう。そして、私からすれば、その恥から逃れるようにし
て、彼は短い生涯に終止符を打ったのである。 合掌。
少年は夢をこの手
に掴みかね享年四十逝き給ふなり
旅立てる童顔の人の御霊こそ救われたれと夏
雲仰ぐ
誰とても幼き頃に見た夢を虹のごときに追いかけるもの
2005.7.13
Hsato
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