どうする厚労省!はしか大流行

「はしか輸出国」と呼ばれる日本


じわじわと麻疹(はしか)が、日本中で大流行の兆しを見せている。

東京では、上智大学や日大に続き、5月21日、新宿区の早稲田大学が30人の感染者が出たということで、全学部(都外にある大学院を除き)が、今月の29 日まで休校となった。

麻疹は、風邪に似た症状を持つウイルス性の疾患である。潜伏期間は2週間程度、感染力が強く、肺炎や脳炎を併発したりして、命にもかかわるケースもある。 子どもの時代に罹ると比較的治りやすいが、大人になって発症した場合は、重症化しやすいタチの悪い病気である。特に妊娠した女性が、罹った場合は、胎児に 何らかの障害が出る可能性もあるといわれる。

麻疹は、日本以外の先進国では、ほぼ撲滅された病気と目されている病気のようだ。今回の日本における麻疹の大流行で、はっきりしたことは、わが国の厚労省 が、麻疹の予防接種などの具体的対応策を怠っていたという事実だ。

読売新聞の社説(5月21日付)によれば、01年には、推計で30万人の麻疹患者が発生したということであるが、その後もこの麻疹に対する予防接種の取組 は行われていなかった。アメリカは、このように日本を「はしかの輸出国」と揶揄(やゆ)しているとのことだ。

考えてみると、インフルエンザの特効薬と言われた「タミフル」のスピード承認(01年)のケースとは、まったく相反する厚労省の遅すぎる対応にはほとほと 呆れるばかりだ。

インフルエンザ治療薬「タミフル」は、96年、ギリアド・サイエンシズ社が開発した新薬である。それをスイスのロシュ社がライセンスで製造をおこない、 01年に厚労省が保険適用承認後、中外製薬が代理店となって販売しているものだ。異様に感じるのは、世界中のタミフル使用量の75%を日本一国で使ってい るという現実である。

ところで、先のギリアド・サイエンシズ社は、かつてアメリカの国防長官ラムズフェルド氏が97年から01年の間会長を務めていたという事情もあり、新薬に ついての承認に人一倍慎重なはずの厚労省が、臨床データも少ない状況で、00年に承認した経緯には、鳥インフルエンザの流行が懸念されていた時期というこ とを加味しても、アメリカからの政治的な圧力もあったのではないかと、疑いたくなるような側面もある。

今年の2月、宮城県の仙台市で、タミフルを服用した少年が異常行動を起こして、マンションから転落して死亡したことで、タミフルとの因果関係が云々されて いたが、一定の服用指針が厚労省から示されてからは、いつの間にか、マスコミも取り上げなくなっている。しかしこれによって、タミフル問題が、解決したわ けではない。

それにしても、どうする厚労省と言いたい。麻疹の対応には油断と怠慢が、一方インフルエンザの治療薬タミフルの承認には勇み足のようにも見える。このふた つの”ちぐはぐな対応”について厚労省幹部は何と釈明するつもりか。

さて問題は、降って湧いたように見える「麻疹大流行の兆し」をどのようにして食い止めるかということだ。早急に、予防接種を各学校などで徹底しなければな らない。それについてのワクチンの備蓄量の問題も当然出てくるはずだ。厚労省への信頼の揺らいでいる今こそ、厚労省関係者は、明確な「麻疹対応策」を打ち 出すべきだ。


2007.5.23 佐藤弘弥

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