グァテマラの悲劇に思う

世界は日本人が考えるより多様で複雑


去る4月29日午前中(日本時間30日)、中米グァテマラの町トドス・サンチョス・クチュマタンで「マヤの秘境観光」に行った日本人が、先住民に殴り殺されるという痛ましい事件が起きた。この町はマヤ文明のマヤ族の流れを汲む先住民族マム族が住む山間の町である。事件の真相は、どうやら最近、町で噂になっているあることがきっかけとなって起こったようだ。

周知のようにグァテマラという国は、1996年に内戦が収まるまで、実に36年間も、政府軍と反政府軍の間で果てしない殺戮が繰り返され、12万とも20万とも云われる人々が犠牲となっている所だ。このトドス・・でも、80年代には反政府軍と疑われた、先住民族
マム族数千人が虐殺されるという事件も起きているほどの危険地帯である。

しかし最近は、折からの「マヤの秘境探検」などというツアーブームの中で、危険な部分が無視されていたきらいがある。そもそも日本人は、グァテマラの国の事情も知らず、「水
と安全はただ」という旧態依然とした価値観を持って、平気で原住民にカメラを向ける無神経な人も多いと聞く。もしもこの場所が、数年前まで、血なまぐさい戦争があって、多くの人間が、その犠牲になったことを知っていれば、こんな悲劇は起きなかったかもしれない。少なくてもツアー会社にも、ツアー客にも、もう少し慎重な態度が必要だったはずだ。

さて事件の真相であるが、その伏線は、ここ最近原住民の間で、噂として流布されていたあるデマから起こったようだ。そのデマとは「外国人が、子供をさらっていく」というものだった。29日、午前、現地のある若い母親が「子供がさらわれる」と叫び、その声に驚いた人々が、一斉にパニックとなり、たまたまツアーに訪れていた日本人ツアー客に襲いかかったというのである。その暴徒化した原住民は約500人余り、運の悪いツアー客は20人ほどだった。地元の警官数人が静止に入ったのだが、集団ヒステリー状態の暴徒を鎮めることは出来なかった。そこで日本人ひとりが、殴り殺され、バスの運転手も引きずり出されて、殺されてしまうという怖ろしい出来事だった。おそらく被害妄想に駆られた原住民たちの負のエネルギーが極限にまで達して一気に爆発したのであろう。

それにしても痛ましい事件だが、このグァテマラの悲劇は防げなかったものだろうか。日本人の好奇心が旺盛なのは、よく分かるが、やはり入念な情報収集がなされなかったための人災と見るべきであろう。日本人は、少なくても世界の国々の人々が、自分たちと同じ価値観、宗教観、人生観、生活習慣、経済事情ではないことを認識した上で、それらの人々と触れ合う気持ちが必要である。とかく先進国の人間というものは、後進国の人々に対して、自分たちの価値観を押しつけがちで、観光にも誤解されてても仕方のない驕りのようなものが行動や言動に出てしまうことが多い。世界は我々日本人が考えているより、ずっと多様で複雑なのである。佐藤
 


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2000.05.02