道路特定財源 福田提案をどう読むか?

再可決やむなしの世論誘導を許すな!!


佐藤弘弥
 

「再可決やむなし」の世論誘導を許すな!!

 はじめに

08年3月27日、福田首相が記者会見で、「道路特定財源の一般財源化などの提案」をして以降、朝日・読売・毎日・日経の大手4紙の社 説が、おおむ ね福田提案を肯定的に評価し、民主党にこの提案を前向きに検討する論調で推移している。さらに4月1日の読売や日経社説では、エプリル・フールをかこつけ てか「暫定税再可決やむなし」の論調にまでエスカレートしている。以上、4紙の社説を追いながら、この論調の奥にあるものを考察してみることにする。

大手四紙の社説で読む福田提案

4紙の中で一番福田首相寄りの論調は、いつものように読売だ。タイトル」は「首相修正提案 民主党も大胆に妥協せよ」(3月28日)。 内容は、「民 主党は、参院第1党として、政治運営に重大な責任を負っている。"拒否政党"という汚名は、早く返上したほうがよい。」(同記事)として、民主党=悪人説 (政局混迷の諸悪の根源!?)に立ったような書きぶりだ。

朝日はタイトルが「首相の決断―小沢代表が応える番だ」(28日)である。翌 29日も朝日は、社説「民主党へ―「福田提案」を実らせよ」のタイトルで、福田提案に触れ、即座に提案を拒否する意向を表明した民主党執行部へ再考を促す ように、「暫定税率の意見がぶつかるからといって、その一点で、一般財源化という大きな魚をみすみす逃がしていいはずがない。この魚は、民主党など野党が 追い込んだからこそ針にかかってきた。きっちり最後まで釣り上げてもらいたい。」と記した。

毎日は、「民主党 改革とは何かの原点に戻れ」(29日)で、内容が民主党を泣き落とすような論調で次のように書いた。
『一般財源化には自 民党内にも異論は多い。ここで与野党で一気に合意した方が確実に実現するという発想もある。評価すべき改革は後押しをする。むしろ、その方が安心して「民 主党に一度、政権を任せてみよう」と思う人は増えるのではないだろうか。私たちはそう考えている。』(同日記事)

日経は、タイトルが「首相提案踏まえ与野党は協議尽くせ」(28日)で、記事は、以下のようなものだった。
『「福田新提案」と「小沢三原則」の間には暫定税率の扱いをめぐって、なお隔たりは大きいが、話し合いの中で接点を見いだす余地はまだあるはずである。日 本経済や国民生活を混乱させないという一点で、福田首相と小沢一郎民主党代表が胸襟を開いて話し合ってもらいたい。』

以上のように、これまで「官僚お任せ内閣」と揶揄されるなど影の薄かった福田首相の提案を、4大紙は、こぞって支持していることにな る。私としては、大政翼賛的というのは言い過ぎであるが、もう少し見解に巾があってもよいのではあるまいか。

 ◆福田提案にはカラクリがある?!

さてここからが、今日の本論である。

一番福田内閣と距離があると見られる朝日の論調をみる。28日の社説では、福田提案をほぼ手放しの褒めようであったが、翌29日は、民 主党の努力を 認めつつ『道路のみを優先する「土建国家」であり続けるのか。それとも福祉や教育、環境など多様な分野から、開かれた議論を通じて税金の使途を決めてい く。そうした「新たな国家」に転換するのか――。私たちも、この指摘には同感だ。」だがしかし、この一般財源化という大魚をここで逃すのは「もったいな い」という具合に、民主党執行部に対する説得口調に変わった。

各新聞社の論説委員は、どの程度、今回の福田提案の裏話を知っているかは不明だが、今回出された「福田提案」というものを、もう一度吟 味し、その提案の裏に、政治的な駆け引きや戦略がどのように仕組まれているかも、分析してもらいたいものだ。

この福田提案は、4つで構成されている。第一は公益法人の見直しと、天下りを排除し道路建設にも競争原理を導入すること。第二に道路特 定財源の一般 財政化。第三に道路特定財源を一般財政化した後にガソリン税を検討し地球温暖化対策と地方財政へ配慮したものに配慮する。但し今年度から一般財源化するの ではなく、2009年度から実施するというものだ。第4に道路整備計画を10年から5年に短縮する、などだ。しかしこの提案には、道路特定財源を無条件に 一般財源化するというものではない。暫定税率は維持し、今後見直していくというもので、これは言わばWスタンダードのやり方であり、私はこの辺りに怪しげ な仕掛けを感じ取るのである。これに対し、民主党は小沢三原則を提示している。それは第一に2008年度からの道路特定財源の一般財源化。第二に暫定税率 の今年度からの廃止で庶民減税を実現。第三に官僚の天下りの完全廃止、である。

福田提案は、民主党が呑めるか呑めないかの境界線を実に巧みに突いたものである。この福田提案の発案者は、現在誰かは特定できないが、 高度な政治感 覚とカリスマ性を持った人物のお墨付きを以てなされた政治戦略であると推測される。このシナリオの第一の戦略は、小沢民主党の躊躇のために、日本の政治が 機能不全に陥っていることを国民に喧伝周知させる一点にある。と同時に、60日後の衆議院での道路特定法案再可決を最終的に正当化することにあると考えら れる。

そうして、先に列挙した大手紙の社説を改めて考えると、福田提案を書いたライターの思惑通りの流れに乗ってしまっていることは明らかと なる。

さらに今日(4月1日)の社説を読むと、早くも、読売と日経の社説には、『「暫定」期限切れ 「再可決」をためらうな』(読売)、「再 可決して一般 財源化の公約を果たせ」(日経)と、早くも「再可決やむなし」の論調に進化している。これは言わばシナリオがフェーズ1からフェーズ2に移行したことを意 味する。特に、読売社説は、「福田首相は、税制法案の再可決が不可欠であることを、国民に繰り返し説明してもらいたい。民主党は、与党が法案を再可決した 場合、首相に対する問責決議案を参院に提出し、政権を追いつめる構えだ。しかし、問責決議案は、憲法や国会法をはじめ法的な根拠はどこにもない。」と極め て露骨である。まさか「大連立」の仕掛け人と同じく読売のトップが、またも今回の福田提案の発案者かもしれないと疑いたくなるような内容だ・・・。

 ◆福田提案をどう読むか五十嵐敬喜氏に聞く

そこでこの福田提案について、法政大学教授の五十嵐敬喜氏に話を聞いた。開口一番、氏は「福田さんが命運を賭けて仕掛けた乾坤一擲の 策」と表したの で、先の4大紙の主張同様、「民主党は、福田提案を柔軟に受け入れるべきだ」と言うと思いきや、次のように、熱を持った発言をされた。

「今回の提案は、まさに福田さんの乾坤一擲の提案だ。しかし、よくよく考えて見ると、提案が少し遅すぎたこと、もうひとつ一般財源化が 今年度ではな く来年度からということなど、ツーレイト、ツーリトルで、カラクリがあるかもしれない。一般財源化の提案が来年度から実施される保証はない。あの小泉さん の約束だっていつの間にか反古にされたことを忘れるべきではない。今回のケースでも、来年度福田さんの首をすげ替えて、最終的に反古にされる危険ないとは 言えない。自民党道路族と国交省の巻き返しを軽く見るべきではない。幸いこの提案に対しては、民主党がキャスティングボードを握っている。その意味では福 田さんが、もうひとつ思い切った決断をして、あの小泉さんでも出来なかった一般財源化を今年度に行うと決断すれば良い。そうすればあの小泉さんもできな かった構造改革を実現した首相として歴史に残る人物になると思う。だから民主党はこれに安易に乗るべきではないだろう。それから衆議院優位の原則から衆議 院での再可決の期日が来る4月末まで、国民の意識が自民党と民主党のどちらに優位に動くかがカギになる。国民にとっても試練の時、民主主義が試されている と言える。これは紛れもなく、日本の政治にとって、戦後最大のチャンスであり、後でふり返れば、あの時と、言われるような時期になるかもしれない。その意 味では、民主党は堂々と正論を述べて、明治の西郷さんや戦後マッカーサーと渡り合ったという白洲次郎のような気持ちを以て、政権交代を目指して欲しい。」

 ◆結語 「再可決やむなし論」への世論誘導を許してはならない

さて、4月1日、暫定税が期限切れとなり、ガソリンが各地で25円ほど下がったようである。各社のニュースで見る限り、今日までガソリ ンが下がるの を、一日千秋の思いで待っていたのがヒシヒシと伝わってくる。特に地方では、驚くほど景気が下降していて、このガソリンの値下がりは、思わぬ減税(?!) に沸いたようだ。一方、地方自治体では、今年度の税源に空白が生じ、地方税収9000億円がストップしたことで、あちこちで道路工事がストップしたところ もあるようだ。これまで当たり前のように、道路特定財源が、地方財政の一翼を担ってきたことは事実で、一刻も早く、道路税に依存した形の地方自治と予算の 組み方を改める必要があるように感じた。

そこで、私たち有権者(国民)は、地方自治体の思惑と有権者の利害にズレが生じていることを受け止めると同時に、いったいこの道路特定 財源というも のが、果たしてこれからの日本にとって本当に必要なのか、どうかを考え続けることが必要だと思う。また私たちは、再可決の期日が来るまで、毎日繰り広げら れる大手4社の社説による情報合戦を、メディア・リテラシーという批判的読解力をもって冷静に分析してみる習慣を身に付けたいものだ。




2008.4.2 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ