遺伝子差別の恐怖

遺伝子情報が新しい差別を生む!?


アメリカから「遺伝子差別始まる」という見出しのショッキングなニュースが飛び込んできた。つい一ヶ月ばかり前に、「アメリカの生命工学のベンチャー企業が、人間の全遺伝子配列およそ95%以上を解読した」との報道がなされたばかりだった。いったいこのスピードは何なのだろう。

報道によれば、現在アメリカでは、会社に入社する際に、遺伝子診断書を提出させる企業もあるようだ。遺伝子を読み解くことによって、その人物が将来病気にかかるリスクを判断し、もちろん遺伝病の有無も完全に審査され、合否判定がなされる仕組みとなる。つまり本人のまったくあずかり知らぬ、遺伝子という運命領域で、その人物の将来の見通しを遺伝子によって、判定されてしまうのである。これ以上のプライバシー侵害は、古今の人類の歴史ではあり得なかったことだ。

そもそも遺伝子研究の先端の科学者によれば、遺伝子は常に変化していると言われる。つまり遺伝子は運命と同じで、常に変化してやまない性格のもののようなのである。それをある検査時期の遺伝子を絶対視することで、その人物の将来性を固定的機械的に判断することは、「人の運命は、予め宿命付けられているとする絶対的運命論」の妄想に近いものがある。

このような状況に対して、クリントン米大統領は2月8日、約280万人の連邦職員や今後の新規採用者を対象として、遺伝子診断の結果(遺伝病の有無やがんにかかる可能性)による採用や昇進に利用する「遺伝子差別」を禁止する大統領令に署名したようだ。

今回の大統領令の骨子は、以下の3点である。

1. 連邦職員の採用や手当給付の条件に遺伝子テストを要求してはならない
2. 保護された遺伝情報を利用して連邦職員を分別し、彼らの昇進チャンスを奪ってはならない
3. 治療や医学研究に使われる遺伝情報のプライバシー保護を強力に推進する。 

同時に大統領は、このことが民間企業にも適応されることを要望し、昨年民主党が提出した「遺伝子情報禁止法案」を強く支持する声明も発表した。

ここまで聞いても何かピントこない人がいるかもしれない。しかし恐るべき現実は、すでに我々の目の前に存在するのである。ホワイトハウスの発表によれば、1996年の米国の調査で、遺伝病が進行している人のうち15%が、採用試験で遺伝病についての質問を受けたと回答している。また13%の人は、自分自身や家族のだれかが遺伝病の素因を理由に就職できなかったり、職を解雇された経験を持つといわれる。

このことは先端科学分野において人間の全遺伝情報の解読を目指すヒトゲノム計画が、急ピッチで進む一方、その解読情報を基にした遺伝子診断による発症前診断や遺伝子治療が現実のものとなり、究極のプライバシーとも言える個人の遺伝子情報をめぐって、新たな21世紀型の差別思想が生まれる危険が高まっていると見るべきである。

さて翻って日本を見てみよう。日本人類遺伝学会は、「検査結果を本人以外に伝えてはならない」とするガイドラインを定めてはいるが、さてどうなるか。それこそ慎重な取り組み姿勢が必要である。「遺伝子差別」。まったく怖ろしい世の中になったものだ。佐藤
 


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2000.2.10