ダルフール紛争
を知らない日本人




佐藤弘弥


ダルフール紛争って、何?

今、日本人に「ダルフール紛争って知ってる?」と質問すると、ほとんどの人が「知らない」と答える。

この事実を知らないということは、今や日本人が、鎖国の江戸時代同様、マス・メディアの高度に発達した21世紀のインターネット社会に生きながらも世界の 孤児になってしまているということを物語るエピソードだ。

インスタントカーマ/ダルフールを救え

アムネスティ・インター ナショナルによるグローバルな音楽キャンペーン「メ イク・サム・ノイズ(声をあげよう!)」。28組のU2、ジャクソン・ブラウンなどのトップ・アーティストがジョン・レノンのカバー曲を熱唱。収 益はダルフール危機に関する活動などに役立てられる。ダルフールに平和を!!(ワーナーブラザーズ)



いったい、ダルフール紛争とは何か?

それはアフリカ北部のスーダンという国家において、2003年2月に内紛が起こり、20万とも30万とも言われる人々が殺害され、強姦され、250万人が 家屋を失い、今だ解決の目途すら立っていない大事件のことを指すのである。

今、ヨーロッパ諸国でも、アメリカでも、このダルフール問題への感心は非常に高い。フランスでは、先の四月の大統領選挙のテレビ討論において、社会党「ロ ワイヤル候補は、ダルフール紛争における中華人民共和国側の対応を非難しオリンピックのボイコットを呼びかけた。」(ウィキペディア)

またアメリカでも、このダルフール問題に関する関心度は、民間でも、政治の場でも、急速に高まりつつあり、女優のミア・ファローさんらが市民や文化人たち が現代のホロコースト(大虐殺)を止めさせるべきだとして立ち上がり、このスーダンに政治的影響力の強い中国政府への虐殺を容認しているに等しい優柔不断 な態度を糾弾し、「北京オリンピックのボイコット」までをスローガンにした大きな運動に発展しつつある。

また連邦議会においても、「共和、民主両党の議員たちがいっせいに、ダルフール虐殺を事実上、あおるスーダン政府と、そのスーダン政府に軍事、経済、政治 の各面で強力な支援を与える中国政府を糾弾し始めた。(産経新聞 古森義久氏のブログ「ステージ風発」より)」

ブッシュ大統領も、この動きに触発されたのか、5月29日、スーダン政府のやり方を「大虐殺」と明確に非難し、これを速やかに止めさせるために、スーダン への武器輸出の禁止や企業に対する金融制裁などの緊急措置を発表した。

さらに、米国下院は、6月5日、「スーダン政府の支援を受けた民兵組織によるダルフールでの大量虐殺を黙認していることは、北京オリンピックの精神に反す る」とする決議案を、賛成410票、反対0の全会一致で可決した。そこでの決議は、中国政府に「ダルフールでの大量虐殺を止めさせるように影響力を行使す ることを求める」と結んでいる。

スーダンにとって、中国は、最大の貿易相手国で、石油輸出料の4分の3は対中国向けとされる。考えてみれば、世界中で遅れてきた大国中国の資源獲得に向け てのすさまじいまでの外交が展開されているが、このような国民の人権や生命をまったく無視した形でスーダン政府が、ホロコーストを繰り広げている様を横目 で見ながら、片方では石油を買い、片方では大量の武器を売りさばく様は、かつての西洋列強がアジアにしてきた植民地支配を見るような思いがする。

それに対して日本政府の対応は、ほとんど静観の構えか他人事しか思えないお寒い姿勢を崩さない。これは、どうみても国連安保理の常任理事国に立候補する世 界のリーダーになろうとする心構えではない。


ちなみにネットの「国会議事録検索システム」での「ダルフール」情報を検索すると、ヒットするのは18件で、参議院が16件、衆議院は2件。衆議院で、 「ダルフール問題」が議題に上ったのは、2004年8月と2005年2月の二回きりで、以後本会議でも各小委員会でも議論の対象になっていない。


岡本行夫氏のダルフール認識

この中で、重要と思われる議論をピックアップすれば、今年の2月13日の参議院での「政府開発援助等に関する特別委員会」で外務省出身の外交評論家岡本行 夫氏(1945−)の発言である。

この中では、ダルフール問題の核心にふれる注目すべき発言があった。岡本参考人は、ダルフール問題の背後に、中国も含めた国際間の資源獲得競争があること を指摘した。内容を箇条書きにしてみる。

@中国は国家を挙げて外交的な影 響力の増大を明確な戦略の下に行っている。

A先頃、「中国・アフリカ協力フォーラム」が北京で開催された。これは中国一国に対しアフリカから四 十八か国が参加したもの。同様に「中国・アラブ対話フォーラム」は、中国一国に、アラブ諸国が二十二か国参加したもの。

B胡錦濤が演説から類推すれば、中国はアフリカ開発基金を五十億ドル(六千億円)規模で設立をしてい る。さらにバイヤーズクレジットを二十億ドル。アフリカに対する優遇的な借款を三十億ドル。などケタ違いの資金をアフリカに注入している。かつこれからア フリカの専門家を一万五千人養成する構想も打ち出している。

Cこの一連の動きは資源を確保するというその強い中国政府の国家戦略がある。

D但し、中国の強引な手法は、国際援助規律から反しており、国際的に批判されている。

Eスーダンのダルフールでは何十万人という人々の大量虐殺が報告されいる。しかしダルフールを国連の 安保理に付託するという意見に対し、中国が拒否権を発動する構えを見せて反対している。

F中国が静かな国際環境を必要として専ら国内経済建設だけに専念していたときは、中国が国連の安保理 拒否権を持っていても問題は生じなかった。

G現在のように中国がむき出しで国益を主張し資源獲得のためであれば国際的な規範を逸脱した国に対し てでも自分たちの拒否権を利用して擁護する行為によって、国連制度が限界に近づきつつある。(後略)
(166回国会 政府開発援助等に関する特別委員会 第2号
平成十九年二月十三日(火曜日)の岡本氏の参考人発言を佐藤が編集)



以上岡本発言によれば、一向に進まないダルフール問題の背景には、中国の資源外交エゴがあるようだ。


安倍首相のダルフール認識

これに対して、安倍首相は、どのような認識を持っているのか。6月13日の参議院「政府開発援助等に関する特別委員会」で、首相は、次のようにな発言をし ている。

「私も先般、四月来日をされまし た温家宝総理に対しまして、中国のスーダンを含めたアフリカへの支援の在り方について、透明性、そしてまた国際社会の規範に沿った形で支援を行っていくよ うに要請をしたところでございます。今般のG8サミットの場におきましても、やはりアフリカの支援をしていく上において、ガバナンスの重要性を十分認識を しながら支援をしていくべきではないかという議論があったわけでございます。

 今後とも、中国に対しましては、海外援助の在り方、特にスーダンに対してはそうなんですが、その透 明性、そしてまた国際規範に沿った支援を行うように求めてまいりたいと考えております。(中略)スーダンにおける虐殺、そしてその関連において、中国が来 年オリンピックを開催するにもかかわらず、スーダンへの支援を行っているという議論があるのは十分承知をいたしております。しかし、日本の立場は、スポー ツはあくまでもスポーツであり、政治とは分けて考えるべきだろうと、このように思っているところでございます。」
(国会議事録より)


これは事実上、中国のスーダン政策に理解を示していると受けとられかねない非常に中国に対して甘い発言だ。おそらく安倍首相の中には、小泉政権の中で冷え 切った対中国、韓国外交を、この問題ひとつで水泡に帰してはいけない、というような配慮が抑制として働いたのだとは思うが、およそ世界の中のリーダーとし ての資質を疑いたくなるトンチンカンな発言にかわりはない。

そもそも、「スポーツと政治は分けて考えるべき」という発言は、国際政治の観点から言えば、一端の理屈には聞こえるが、どのように考えてもおかしい。近代 オリンピックは、世界平和を祈念して構想されたものであるが、現実には、常に政争の道具かプロパガンダの役割を果たしてきた歴史がある。

1936年、ナチスドイツが「ベルリンオリンピック」を民族の祭典として大々的に喧伝し、国威発揚のプロパガンダとして利用したことは歴史的事実である。

1980年の
モスクワオリンピックは、アフガン侵攻で、西側諸国がボイコットをしたことで記憶に新しい。

現代において、オリンピックは、世界中から巨額の資金が流入 することで、国おこし的効果が期待されるビッグイベントになっている。北京オリンピックでも。中国経済に与えるプラスの経済効果は、1964年の東京オリ ンピック以上のものと見込まれている。

しかしながら、中国政府が、今後真の意味で、世界のリーダーたらんとするのであれば、スーダン政府のような自己の国民を虐殺するような政府を容認するよう なことであってはならない。少なくても安保理常任理事国であるというならば、人類普遍の倫理観を持つべきだ。たとえどのような理由があろうとも、自国の国 民を、圧倒的な軍事力を持つ政府軍を使って虐殺させるような行為を許してはならないのだ。


オノ・ヨーコの「セーブ・ダ ルフール」活動

日本ではほとんど報道されていないが、ヨーロッパ、アメリカでは、政府、市民も含めて、ダルフールのホロコーストを糾弾する大きな動きが急速に起こりはじ めている。

グーグルは、グーグルアースを使って、ダルフールのホロコースト現場の位置や写真やビデオなどが一覧出来るサイトを以下のところで立ち上げている。

http://www.ushmm.org/googleearth/

先頃、ニューヨークに在住するオノ・ヨーコさんは、ジョン・レノンの曲のカバーを集めた2枚組みのアルバム「イ ンスタント・カルマ/セーブ・ダルフール」 (ダルフールを救え)を発表した。その収益は、すべて国際的な人権団体(NGO)アムネスティ・インターナショナルに寄付されることになっている。参加 アーティストは、「U2」「ジャクソン・ブラウン」「REM」などの大物から若い人まで雑多である。

ヨーコは、「この政治的危機や情緒危機の時代に、人々がジョン・レノンの音楽を求めるものは自然なことだとう」として、ジョンの音楽に込められた平和への 「祈り」が「ダルフール」に一日も早くホロコーストの危機的状況を脱し、平和が訪れることを願っているのである。実は私も、このアルバムのお陰で、ダル フール問題の深刻さを知ったのである。



ダルフール紛争って知ってい る?と問いかけてみよう!!

今後、この記事を読んだ、すべての人は、身近な人に「ダルフール紛争って知っている?」と問いかけ、もしも知らなければ、説明し、一日も早く、日本のマス コミが、正確な情報を伝え、日本政府が世界のリーダーとして恥ずかしくない積極的な発言をするように働きかけるべきである。

 ダルフールの平和回復を祈って三首
ダルフール紛争知ってると聞き知らぬと答える世情を知らぬ寒さかな
恥ずかしや平和日本のニュースとてダルフールの悲惨映らざる事
声上げて大声上げて「サーブ・ダルフール」と叫ぶ声の連なり繋がり



2007.7.10 佐藤弘弥

義経伝説
思いつきエッセイ