東京世田谷の円乗寺という真言宗の寺に、株分けした中尊寺蓮があるというので、早起きをして円乗寺に向かった。中尊寺蓮は、大切に鉢に活けられていたが、
蕾も小ぶりで固く、まだ開花はしていなかった。その代わりといっては何だが、地植えされた大賀蓮は本堂の前に群生し、見事な花をつけていた。その花を見た
瞬間「今年も古代蓮が大輪の花をつける季節となったのだ・・・」と、しみじみ思った。蓮はインド原産の仏の花だ。泥に根を生やし、寒い冬をじっと堪えて、
夏を待ち、信じられないような美しい花を結ぶ。そして今日開花したかと思えば、明日にはあっという間に散ってしまうのだ。蓮は人の思惑などどこ知らぬげ
だ。蓮には桜とはまたひとつ違う潔さがある・・・。しかも中尊寺蓮は、金色堂の泰衡の首桶から見つかった種子が800年の長い眠りから覚めて発芽した奇跡
の花だ。本の数十年前まで、この寺の近くには歌人の斉藤茂吉や詩人の萩原朔太郎も住んでいて、この寺は散歩道だったという。もちろん当時は大賀蓮も中尊寺
蓮もなかった・・・。ありがたく、あり得ない奇跡を見せていただく思いがして、思わず大輪の蓮に向かって手を合わせる自分がいた。
世田谷の寺に生きてふ中尊寺蓮に手合わせありがたきかな