セレブはつらいよ”という事件を思う

ー二つのバラバラ事件の共通点ー


昨年春だったか、弘法大師空海が開山した高野 山で二件続けざまに殺人事件があり、聖地と言われているところにも、深刻な問題が内在していることを知らされる思いがして、背筋が震えたことを思い出す。 そしたら今年は、東京のど真ん中の高級住宅地と言われる渋谷の富ヶ谷付近で、兄が19歳の妹を殺害し、あろうことか遺体を解体するというおぞましい事件が あった矢先、昨年暮れに発覚していた男性のバラバラ遺体の容疑者が逮捕され、それが何と32歳の年上女房であったというので、二度驚いた次第である。

昨年は深刻な人口減少に見舞われた高野山での殺人だったが、今度はセレブと言われる人たちが住む界隈で、バラバラ 殺人が起こったことで、正直なところ、金持ちも楽ではないな、という思いがした。

最近では、人生の勝ち組、負け組を分けて見る、妙な見方が拡がっているが、今年の富ヶ谷の二件の殺人事件は、一般 に勝ち組と呼ばれている家族で起こったことに特徴がある。兄は父の稼業である歯科医を継ごうと、3浪中であった。それに対して妹はすんなりと女子大に入 り、どこかで兄を見下げているようなフシがあったのだろう。日頃から、妹の家族に対する口の利き方が気になって許せなかった、と供述しているようだが、そ れが殺人まで発展し、これをバラバラにするというのは、常識を逸脱した犯罪というしかない。

また一方、年上妻は、新潟から上京した社長令嬢で、かなり上昇志向が強い性格のようだ。一浪して名門女子大に入学 し、客室アテンダントになろうとしたが、なり損ねて、派遣社員などをしていたが、福岡から上京した被害者の夫と三年前に合コンで知り合い、三ヶ月の付き合 いで、結婚をする。夫は中央の法科を出て弁護士を目指していたが、こちらも挫折してモルガンスタンレーの不動産関係会社に就職した。現在日本の不動産市場 は、REIT(リート=不動産投資信託証券)と呼ばれる市場が活況を呈しており、莫大な金額が飛び交う世界で、いささか二歳年下の夫は、気が大きくなった のかもしれない。そんな中で、セレブ妻となった妻は、気が大きくなった夫の大酒やDV(暴力)に堪えながら、過ごしていたようである。考えてみれば、気が 合わなければ別れればいいようなものだが、一度掴んだセレブの座は放せなかったのかもしれない。

どうやらストレスというものは、貧乏もセレブもないようだ。見栄を張りすぎたり、無理をした生活は、いつか必ず破 綻し、取り返しのつかないものになるということかもしれない。まったく「男はつらいよ」ならぬ「セレブもつらいよ」というような怖い事件であった。

2007.1.16  佐藤弘弥

義経伝説
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